「あの人達、どこへ向かうんでしょう」

安西エミリはハンドルに顎をのせ赤信号を睨んだ。上野の眩しい光が目にしみていた。


「どこって不忍池」

「じゃなくて...《影》を倒した先に何が有るんですか。どうやっても討伐は追いつかない」

助手席の早川の弥生顔をついでに睨みつける。

「あぁ......硲はネ《影》の裏になにか有ると踏んでるでしょ。硲が目指すのは粛清だよ。《影》を作り出した能力者のネ。」


粛清。その言葉がざらつく。この業界で能力を使って世界の均衡を崩す者は始末されると決まっていた。

あくまでも均衡を崩す者だ。月のような人を呪って生計を立てる者は均衡を崩す者にカウントされない。世界で呪いなど日常茶飯事なのだから。


「能力者が関わってるんですか!?そんなのあの3人知らないはずじゃ」

そういう案件としてあの三人は引き受けていないはずだ。3人とも仕事を選ぶタイプに見える。

「まぁそろそろ明かすでしょ。あくまでも今はお試し期間。《影》と裏で動く能力者を仕留められるか試してるんだよ。」


粛清という行為はかなりハードになるらしい。世界の均衡を崩す程の能力者なんてロクでもない。並の能力者ならすぐに殺されて粛清どころではなくなる。

といっても粛清沙汰になる能力者は最近はいないらしいが......

信号が青になっていたのに気づき急いでアクセルを踏み込む。


「残酷ですね。能力者同士で殺し合いさせるつもりですか?」

「硲はそういう男だって言ったでしょ。優しすぎるがゆえに残酷なんだ。無駄死にさせないようにあの3人に絞ったわけだし。それにこの業界で生きてきたんだからある程度の覚悟は持ってるだろうし」

白狛の顔がふっと思い浮かぶ。25、だっただろうか。あの無言具合といい運良く生き残ってきた能力者に見えるのだが。


「どうですかね。白狛君どう見てもピュアのかたまりみたいな子ですよ?」

「エミリ、まさか気づいてない?ホントにピュアなのは燕君でしょ。」

「え?」

早川がくっくっくと声を立てて笑った。


「俺がこの商売何年やってると思ってんの。見れば分かる。燕君きっと幸せな家庭で過ごしてきたんだろうね。能力者のくせに目が生き生きとしてるんだよネ」

「失礼な!私は目ェ生きてますよ!」

「エミリは能力者というより能力持った凡人でしょ。あの3人みたいな能力者は苦労だらけだヨ〜」

かなりイラッときたが早川はいつもこんな調子だ。もう慣れた。

「ましてや才能ある能力者だとネ、生い立ちに色々有った人も多いからネ。で、人を呪ってくと心が腐ってくんだヨ。人を呪ってピュアなまんまの人間なんてこの世に存在しないヨ〜」

「ハイハイどーせ私は才能ない能力者ですよ」

「エミリはそれでいーの。ピュアじゃないエミリはエミリじゃないからネ」

「はァ?」

月のように睨めたら良かったのに。舌打ちをして無理やりハンドルをきった。身体にのしかかるGが気持ち良い。

「ほら安全運転!」

「嫌です!っていうか月さん達放っておいて良いんですか!」

「ダイジョブダイジョブ......だと思うんだけど。いざとなったら鳳子さんが出動するとか」

「鳳子さん戦えないでしょうが!!」

んんん、と早川が唸る。

「硲は忙しくてそれどころじゃないしな......まぁどうにかなるでしょ。硲が見込んだ3人だよ?」

「だと良いんですけど!!」

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