夜明け
ビルの隙間から橙色の光が溢れている。目を細めてその光を眺める。
「眩しい......」
口元に垂れた血を舐める。疲れた身体が崩れ落ちてしまいそうだった。
自販機にもたれかかりそのまま座って目を閉じる。このまま眠って良かったが......そうだ。ホテル松竹梅......
もう何体と闘ったことだろう。睨みに睨みをしまくって目が痛かった。
反動も酷い。一度血を吐いてしまった。おかげで口の中はずっと血の味がする......
「夜明けだネ。嬢ちゃん」
「構わないで......ください」
どうせ居酒屋で夜を越した酔っ払いだろう。お前も吸収されるぞ、なんて言ってやりたかったが冗談にならない。
「構うな、って言われても俺、構わないといけないんだよナ。ネ、キミ月ちゃん?」
「ちゃん付けはやめてって…言ったでしょう」
「げんきだナ〜硲が言ってた通り。」
「硲?」
どうにかして目を開く。塩顔弥生系男が私を見下ろしていた。硲とは顔の系統が真逆も良いところだ。
「弥生人が私に何の用です?」
「弥生人〜?まぁ俺もキミもその血は引いてると思うけど100%弥生人じゃないヨ。さーてホテル松竹梅までお届けするヨ!」
あれ。もしかしてこの弥生人、変質者ではないだろうか。これはイケない状況では。
「ほら!早く運びますよ!早川さんッ」
「え、でも動いてくんないヨ」
「こういう時は強引にでも!」
甲高い女の人の声。逃げなきゃ、と思う前に抱き上げられてしまった。良い匂いがする。
......あったかい。
そして顔に押しつけられているのは何だろう。
疑問が頭を飛び交ったが答えを出す前に私は眠りに落ちたのだった。
「起きてください〜着きましたよ」
「ん......」
目を開ける。パンツスーツの女性の顔が目の前にあった。一つにくくった茶髪、人の良さそうな垂れた目。ジャケットの胸元はパツパツで少しキツそうだ。
「あの、私」
「ホテル松竹梅の安西エミリと申します。立てますか?」
「え、ええ」
どうやら私は車に乗せられていたようだった。安西の手を借りて身体を起こす。後方ドアがスライドした。
車から降りてみる。目の前にあったのは黒い建物。ライトがホテル松竹梅の文字を浮き上がらせている。ガラスの戸がひとりでに開く。すうっとホテルらしい匂いがした。
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