確認
「お見事だ。3人とも」
障子にぱっくりと黒い空間が開き男が這い出る。鳳子が顔をしかめた。
「噂をすれば硲風斗…」
「鳳子ちゃん元気?」
「ちゃん付けはやめろと言ったはずだ」
「月ちゃんと同じ事言ってる」
「それだけ嫌ってことです」
硲は口先を尖らせ黒い空間に手をやった。
『閉-トジヨ-』
空間がすっかり閉まっていき元の障子に戻る。何度見ても不思議だ。こうして見る分には簡単に見えるが『開-ヒラキ-』は難易度が高いらしい。私も使い手は硲しか見たことがなかった。
「月ちゃん無理しすぎたんじゃないか?反動が酷いな…」
「とか言って私がこうなることは予想できてたんでしょう?私を送り出してどうするつもりだったんです?」
いちいちこう怪我しているようだったらまともに討伐などできない。《睨み》はあくまでも呪うことに向いた能力なのだ。
「今回戦ってみて何が分かった?」
「《睨み》の加減…人間向けの呪いが効くこと」
「《影》の器は人間だからね。痛みは効くんだろう…そこの二人は?」
硲が指をくいっと曲げた。
「俺は…清と祓が上手く効かないこと…俺の基礎体力が絶望的なこと、かな」
「ぼ、僕…?纏が《影》に効くこと…それ…くらい…?」
そこまで言って白狛が俯くと満足そうに硲は頷いた.
「ようは改善点を見つけて欲しかったんだ。あれだけ強い《影》と戦えば戦い方がしっかり分かるだろう。それに《影》のサンプルは欲しかったしね」
「でも私の能力はどう見ても向いてないんじゃ」
「君たち3人は一番、《影》の討伐に向いた能力者だよ。俺が見込んだんだから。月ちゃんも白狛も人を呪うより助けて金稼ぎしたいでしょ」
なんといえばいいのか分からず粥を口に入れる。今更生き方を変えるつもりは無かったが自分にもそんな気持ちがあるのだろうか?
「三人とも命の危険があることは否めない。これから本格的に《影》を狩るけど大丈夫?せっかく生きて帰れたんだ。このまま抜けてもいい…」
硲が私たちの目を覗き込んでいく。嘘などつけるはずもない強い視線。
「俺はやります」
「…僕…も」
「やります」
どうせこの仕事を続ければ死に直面する日が来る。だったら…
「ヨシ!みんなやる気はあるみたいだな。じゃあ少し話を聞いてくれないか」
硲は声の色を変えて微笑んだ。張り詰めた空気が和らぐ。
「月ちゃんの怪我が良くなったら訓練のようなものをしてもらう。二日間上野でね。」
「訓練というと?」
「最近、上野で《影》が確認されてね。まだ人間を吸収してないのが結構発生してるみたいなんだ。一日目は単独で雑魚を狩る。二日目は三人で連携するんだ。もし怪我したら俺に連絡を入れて。開いて鳳子ちゃんを出張させるから」
初耳だったようで鳳子が硲を睨んだ。反動が凄そうだ、と思わず思う。
「高くつくぞ」
「そんなに睨むなよ。俺が怪我しちまう」
「あいにく私はそちらの能力を持ってない。そうだ。この三人の治療費はお前持ちだったな」
鳳子が白衣のポケットから紙を取り出して硲へ突き出した。
「請求書…」
「一人十万。私にしては良心的だと思わないか」
硲の顔がひきつっている。
「…鳳子さん…嫌いな相手には…よくぼったくるんです…」
白狛が私たちに耳打ちする。
「わかった、わかったよ…必要経費だけどコレ出費者にどう説明すれば…」
「私に会え、とでも言っておけ」
うわぁあああ!と硲が嘆くのを私たちは顔を見合わせたのだった。
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