ロブスター男

アリエッティ

第1話 不死の代償

 とあるバイトに参加した、報酬が良くかなり条件が良かった為軽い気持ちで望んだ。やることは簡単、ベッドに横になり様々薬を飲んでは結果を報告する。ただそれだけだ


 「次はこれを試して貰う」

様々な怪しい薬を怪しい連中に飲まされたが、後半は慣れもあり感覚が麻痺していた。それと鎖の効力であったのはそれはわからないがとにかく気には留めていなかったと思う。


「完全生命薬、いわゆる不老不死の薬だ。

..待てよ、だとすれば〝不完全な生命〟か?」

訳のわからない事を言っていたがそれも気にはならなかった。


だからこそ、後悔する結果に至ったのだろう


「夏休みって皆終わりを嘆くじゃん?

でも終わるからあれって悲しめるんだよね」

パイプに括り付けられた女が涙を流してじたばたと抵抗する。口を動かしているが塞がれている為何を言っているかわからない


「終わらない幸せってあると思う?

無いんだよ、いつかの終焉がその過程をいつも際立たせてるだけだからさ」

終わりはとても美しい、物事の完成形であり皆が目指すべき到達点といえる場所。最も幸福なのは、殆どの誰もがそこへいつかは必ず辿り着けるという事だ。


完命薬かんめいやく、何処かの学者が開発してる秘薬の名前。特許取ってるのかもそもそも免許があるのかもわからない代物だけど確かに存在するものだ。」

通称〝不老不死の薬〟

胡散臭さ炸裂の怪しげなものだが効果は抜群


「知ってる?

ロブスターって不死身なんだよ。甲殻類って脱皮するとき殻が新しくできるんだけど、奴だけは中の臓器も一緒にすげ変わる。だから身体も健康に保たれるってワケ」

心臓を含む内臓も全て新しくなる、不死身というよりは超再生というべきか。


「想像出来る?

それが人間になっているとこ、思い浮かべて」

涙を流して怯える少女

その顔を眺め、男は不敵に笑っている。


「ね、キモいでしょ?

オレも随分想像してさぁ...いっつも吐いてる」

腹部を手に持つナイフで突き刺す。

声も上げられず、鋭い痛みに震え怯える


「だから決めたんだよねオレ、生きた心地がしないから...〝死ぬ瞬間〟を作ろうってさ!」

誰かの命が終わりを迎えるとき、人間の美学を自分で作り出せれば生を実感出来る。


「安心しなよ、記録は残して送ってあげる」

愉しいものは共有する。

それで寂しさを紛らわす事も出来る


「最後に製作者の名を教えよう。

〝カシキタ クレオ〟

大丈夫、直ぐに忘れていいからね」

終えた後には用は無い、ただ礼儀としてだ。


「さようなら、愛しの新作ちゃん。」

ああ、再生のしない生命の何と美しいことか

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