第25話 散々クッキング
「いやあー、いい湯だったね七海ちゃん」
「そうですね! 瑞希さん!」
待合室でコーヒー牛乳を飲みながら待っていると女性陣が出てきた。順調に打ち解けているようだ。
妹はこちらに気づくとニヤニヤしながら近づいてきた。
「兄貴も案外やるわね」
「なにが?」
「なんでも」
なんなんだ一体。キャンプ場に戻るまで妹はニヤニヤしていた。
* * *
「さて、カレーを作るか」
キャンプ場に戻るころには日が暮れ始めていた。
カレーを作るには再び火を起こさなければならない。
「火は……的場に頼むわ」
「あいよ」
慣れている人間に任せたほうがいいことは昼のときにわかっていた。
「じゃ、あたしも火起こしする!」
「あーはいはい」
正直火起こしは的場一人で大丈夫だろうが、別に妹が一人増えたところで迷惑にはならんだろう。
「じゃ、七海ちゃんは兄貴を手伝ってあげてね!」
「は、はい!」
妹は謎にウインクを飛ばしてきた。アシストのつもりだろうか。相変わらず勘違いしている。
* * *
あたりは暗くなってきていたが、炊事場には照明がついていたので助かった。
「じゃあ、野菜から切ってこうか」
「はい! ……それでは、てぇーい!!」
忍野さんは勢いよく包丁を振り上げた。
「はい、ストップ!!」
的場が言っていたのはこれか……。
「忍野さん、忍野七海さん」
「はい」
「中学時代の家庭科の成績は?」
「2です!!」
「家庭科2はもう不良じゃん」
たぶん実習とかでも周りの子が包丁を持たせなかったんだろうなあ。
「そんなに力込めなくても玉ねぎは切れるよ」
「私非力なので……」
「大丈夫だから、そこは文明の利器を信じて」
包丁は石器時代からあるやつだから。それ幾千年の進化を遂げてきたすごいやつだから。
「それでどうやって料理してたんだ……」
「基本的に形がなくなるまで煮ます」
「あー。ある意味イギリス風?」
確かに件の忍野カレーは具と呼べるものはほとんどなかった。
「こう、刃を滑り込ませるようなイメージで、手前に引いて奥に押す」
「滑らせる感じ……あ、切れました!」
「それが物理法則です」
そんな感じで、僕は臨時家庭科教師になった。一応教員免許は持っているが、家庭科の資格は持っていないのだが。
四苦八苦しながらカレーの具材を切り終わったときには日が完全に沈んでいた。
「よし、米研ごうか」
「おまかせください! えっと洗剤は……」
「ベタ!!」
実在したのか、米を研ぐのに洗剤を使おうとするやつ。
「いつもそうしてるの?」
「いえ、炊飯器の使い方がわからないのでいつもはレトルトのご飯を食べてます」
「生活の知恵だね」
なんとか米が泡だらけになるのは回避した。米は炊事場に設置されたレンタルの炊飯器で炊くことにした。
「……材料も準備できたし、的場のところに戻ろうか」
「はい!」
「……思ったより重症」
「……? なんておっしゃいました?」
「いえ、なにも」
* * *
「お、なんかすごいな」
的場たちのところに戻ると焚き火が準備されていた。
「へえー、こういう台があるんだな」
「芝生のサイトではこういうのを使うんだ」
金属製の台が置かれていて、その上で薪が燃えている。更にその上には四本脚のスタンドが立てられている。
「なんかこれあれみたいだな、中に入って座禅を組むとピラミッドパワーが得られるやつ」
「クワトロポッドのことを言ってるのか?」
スタンドはポッドというらしい。頂点から鎖がぶら下がっていて、鍋が吊るせるようになっている。
「ねえ、お腹すいた。早くカレー作ってよ」
「どうせ的場を眺めてただけだろ。なんでお前が一番腹空かせてんだ」
社会人にもなって働かざる者食うべからずの原則も知らんのかこの妹は。
(ぐうぅぅぅ)
「え?」
「一番はあたしじゃないみたいよ」
振り向くとお腹を抑えた忍野さんが小さく手を挙げていた。
「早く作ろう」
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