第23話 妹襲来

「んー! 炭火焼き! サイコーです!!」  


 串に刺した肉を頬張る忍野さん。


 僕も一つ取って食べてみる。


「うま」


 やはり炭火焼は違う。凝縮された旨味をきれいな高原の空気と一緒に味わうのは最高だ。


「ほら食え、もっと食え」


 バーベキュー奉行と化した的場は次々と肉を焼き、野菜を焼き皿に積み上げていく。


 うまいうまい。僕と忍野さんは肉と野菜を消費するだけのマシンと化していた。


「……ーい!!」


 どこかで誰かが僕を呼んでいる気がする。


「……おーい!!」


 声のする方を見ると誰かが走ってくるのが見えた。


「……ちょっとおー!!なに勝手に始めてんのー!!」

「ちっ、においをかぎつけてきやがったか」


 妹だった。すっかり忘れていた。


* * *


「お久しぶりです!!的場さん」

「お、おう久しぶり」


 妹はたどり着くなり的場に声をかける。妹は的場にゾッコンだが、的場の方はちょっと苦手に思っているらしい。的場曰く、「ギャルっぽいから」とのことだ。


「あ、あなたが兄貴が言ってた後輩ちゃんね!」

「あ、はい。忍野七海と申します。お兄さんにはお世話になってます」


 ペコリと頭を下げる忍野さん。


「私瑞希、よろしくね」

「よろしくお願いします!」

「若いねー七海ちゃんって呼んでいい? ……ってか若くない?」

「え?」

「ちょっと兄貴? こっち来て」

「あ? なんだよ」


 僕は妹に引っ張られテントの裏まで連れてこられた。


「ねえ、あの子何年生?」

「1回生だけど」

「1回生? 1回生って1年生?」

「1回生は1年生」

「じゃあ未成年じゃないの」

「民法上は成年だろ」


 もうとっくに世の中は18歳成人だぞ。


「二十歳いってないでしょってこと!!」

「浪人してなきゃ、いってないんじゃないか」

「はあー」


 しゃがみ込む妹。


「なんだよ」

「後輩って相手も大学院生なのかと思ってた」

「そんなこと言ってないだろ」

「あんたあの子狙ってんの? ロリコン?」

「なんでそうなる?」

「あんたいくつよ」

「えーと24?」

「26でしょ! あたしの2つ上なんだから!」

「僕ももう26歳かあ」


 20歳を超えたあたりから自分の年齢なんて数えなくなっていた。


「7つも離れてるのよ! 悪いこと言わないからプラマイ3歳くらいにしときなさいよ」

「なんの話だよ」

「あたし、年下の義姉なんていやだからね」

「だからなんの話だよ」

「結婚するならでしよ、あんたもいい歳なんだから」

「おふくろかよ。だいたいマイナス3歳でもお前より年下だろうが」

「それぐらいはセーフ!!」


 結婚だのなんだのと、こいつは何をはやとちっているのか。社会に出てしまうとこうなってしまうのだろうか。恐ろしいことだ。僕はいつまでも学生でいたい。学生で、痛い。


「だから、そういうのじゃないんだって。……もういいから、お前は的場と仲良くすることだけ考えてろ」

「なんなのよ」


 説明するのもめんどくさい。僕はただ忍野さんにカレーをおすそ分けしてもらいたいだけだと言って、恋愛脳に支配された妹に理解してもらえるとは思えない。


「あと、言っとくけど僕も歳上の義弟なんて嫌だからな」


 



 

 


 

 



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