第20話 キャンプ作戦
「あ、もしもし? 僕だけど」
「……どちらさまですか?」
「いや、僕だって。お兄ちゃんだよ!」
「兄は死にました」
「死んでません! ぴんぴんしてます!」
「正月も帰ってこないくせに、死んだも同然でしょ」
「死んだようなもんのくせに学費だけはかかるってか」
「自分で言ってて悲しくないの」
「妹が僕の携帯番号を登録していないらしいことのほうが悲しいよ」
久しぶりに電話した妹とのハートフルなやりとり。自分を繕わず話せる家族の存在というのはありがたいものだ。
「で、なんなの? 電話なんかしてきて。兄貴と違って忙しいんだけど」
「キャンプに行くからお前も来い」
「だーかーらー。忙しいって言ってんじゃん。看護師なめんな」
僕と違って、2歳年下の妹はとっくに大学を卒業し、看護師として立派に働いているのである。
「的場も来る」
「万難を排していかせていただきます」
そしてあろうことか僕の妹は的場に惚れてしまっている。いつだったかの夏休みに的場を連れて実家に帰った時以来、妹は的場にゾッコンラブだ。僕には彼女が的場のどこに惚れたのか全くわからないのだが、今回はそれを利用して、妹をキャンプに数合わせで参加させることにした。
そうMO2作戦の第二段階、「キャンプでカレーを作って忍野さんの力量を量ろう作戦」である。キャンプというイベントで自然にカレーを作る流れをつくり、いかにして例の激マズ忍野カレーが生まれたかを分析、対策を検討するとともに、現在の忍野さんのカレー作りの腕前を把握しようという作戦だ。
さすがにある程度仲良くなったとはいえ、忍野さんと二人きりでキャンプに行くわけにもいかないので、事情を把握している的場に協力を依頼した。そして女子一人というのも良くないということで、唯一僕が動員できる女性である妹を招集することにした。
「あと後輩の女の子が来るから」
「女の子……? わかったそいつを殺れってことね」
「なんでだよ!」
「だって的場さんの彼女なんでしょ、その子。ライバルを潰すチャンスをくれるってことよね」
「ちげえよ」
猟奇的な妹。医療事故が発生していないか非常に不安である。
「じゃあなんなのよ、その子。兄貴の彼女ってことは絶対ありえないし」
「絶対とか言うな! まあ僕の彼女ではないけど」
「あーはいはい、わかりました。彼女ではないけど彼女にしたい子ってことね。あたしと的場さんの仲を取り持つから協力しろって言うんでしょ。そういうのは女友達に頼みなさいよ。まあ女友達なんているわけないからあたしに電話してるんでしょうけど……。はあ、情けない。涙が出るわ」
「泣きたいのはこっちだよ」
僕に似て想像力のたくましい妹。呪われた家系である。
「もういいよ。だいたいそんなかんじだから。9月中で休みが取れる日がわかったらまた教えてくれ」
詳しく説明する気も起きず、僕は電話を切った。しかし僕は妹が言うようなたぐいの協力を必要としているわけではなかったから、別に良いのだ。妹はただの数合わせでしかない。だがこれで準備は整った。忍野さんと的場には既にキャンプのことは話してある。
的場は忍野さんがカレー作りに参加することをひどく恐れていたがなんとか説得して参加の了承を得た。
「俺が死んだら君のせいだぞ」
的場は忍野さんの料理の腕が悪化している可能性を恐れているようだった。
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