第4話 地獄へのカウントダウン
僕は的場におすそ分けカレー卒倒事件のあらましを話した。
「……というわけだ」
的場は腕を組み、目を瞑って身じろぎもせず僕の話を聞いていた。
僕の話が終わったと見ると、腕組みを解いて真剣な顔で言った。
「にわかには信じがたい」
「そうだろう。女子大生におすそ分けされたカレーがまずいなんてことがあるはずがない。僕も僕自身の身に起きたことでなければ虚言だと思うだろう」
「まずその女子大生は実在するのか?」
そこを疑うか。
「お前は僕が妄想の女子大生におすそ分けされたカレーで気絶したというのか」
「うっかり激マズカレーを作ってしまい、あまりのショックであらぬ妄想をしてしまったのでは?」
「そこは僕の腕を信じてくれよ」
「まあ確かに君がカレー作りに失敗するというのは考えにくい。しかし隣の女子大生がカレーをおすそ分けしてくるよりは可能性があるように思える」
女子大生におすそ分けされるというのは確かにそれぐらい稀有なことだ。
しかしだからこそ、激マズカレーによって有頂天から叩き落されて僕は気絶したのだとわかってほしい。
「百歩譲って、君の隣人の女子大生が君にカレーをおすそ分けしたとして、そのカレーがまずかったというのはやはり何かの間違いではないか?」
「僕だってそう思いたい。まずいカレーなどこの世に存在してはならない」
「それもそうだが、何よりまずいカレーをおすそ分けするか?」
「普通はしない」
それはテロリズム以外のなにものでもない。
「テロとは言わんまでも傷害罪にはなりうるだろう」
法曹を志すものらしい見解だ。実際僕は気を失っているわけだし。訴えたら勝てるんじゃないか。
「その女子大生……名前はなんと言ったか?」
「忍野さん」
彼女が引っ越してきたとき、律儀に部屋に来て挨拶をしてくれたのだ。
「忍野さんは、自分の作るカレーがまずいことに気づいていないのか……」
「そんなことがあるのだろうか」
「でなければ君が大げさを言っているかだ」
なぜ的場は僕を信じないのか。見ず知らずの小娘より僕のことを信じてほしい。
「僕の舌を疑うなら、食べてみろよ」
「なんだと?」
僕は持参した手さげ袋からタッパーを取り出した。
「忍野さんにもらったカレーはまだ残っている。僕も食うからお前も食え」
「……いいだろう」
僕は的場の家に来る途中に買ってきたレトルト米を温めようとレンジにいれた。
液晶に表示されたカウントダウンはまるで僕たちの寿命を宣告しているかのようだった。
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