ハッピーエンドの先へ

目を開けるとそこには、彼も


あの人間もいなかった。


どうやら、僕が寝ている間に彼は


外に行ってしまったようだ。


多分、あの人間も彼について行ったのだろう。


僕は、大きく欠伸をする。


朝日が顔に当たって眩しい。


うーんと背伸びをして、奥の部屋へ向かう。


彼は、僕が寝ていても、きちんとご飯を置いていってくれるので、待っている間に僕がお腹を空かせることはない。


今日も一日、ベッドの上でゴロゴロしながら


彼が帰ってくるのを楽しみに待つ。


時間が立ち、暑くなった気温も下がり始めた頃、いつの間にか目の前にいる人間に僕は驚いて、ベッドから転げ落ちた。


イテテ…


痛みをこらえて立ち上がる。


人間は、泣いていた。


僕は、まだ泣いていたのかと、昨日のように慰めようと頬に顔を近づけた。


けれど、人間は、そんな僕を制して



「すまない、優しき獣よ。お主に伝えたいことがある。」



と、泣きながら僕を見つめて言った。



「何?」



僕もしっかりと人間の目を見る。


人間は、唇を噛み締めながら、ゆっくりと僕に言った。



「今日、お主の大好きな人間は帰ってこない。」



僕は、首を振る。



「彼が帰ってこないはずかないよ。何を言ってるの?」



彼は、僕と出会ってから、この場所に帰ってこなかった日は、一度も無かった。


だから今日も絶対に帰ってくる。


僕は、信じているから堂々と人間に、言った。



しかし、人間は相変わらずの悲しそうな目で


すまない。と謝った。


そして、深呼吸をして話を続けた。



「これから、私は、彼の命を奪わなければならない。」



命を奪う。


これがどういうことか僕にも理解できた。


でも何故、奪われなければならないのか理由が知りたかった。


僕は、人間を睨んで問いかける。



「彼の命をなんで奪うの?」



人間は、ただ泣きながら怯えている。



「なんで僕の幸せを、奪うの?」



僕は、叫んだ。



「やめてよ!!」



叫んで、人間を責めた。


その度に人間は、謝るのだか僕が欲しいのは


そんな言葉じゃない。


だから、叫ぶのを止めない。


すると、急に泣き止んだ人間は、目一杯


空気を吸い込んだ。



「それが私が生まれてきた意味だからだ!!」



僕の叫びより、大きな音が部屋に響く。


人間の目は、宙を憎んでいる。



「私だって、彼を見てきた。お主と出会ってからも出会う前も、ずっと!!愛おしくて仕方なかったんだ!!」



憎みながら泣いている。


僕が入る隙なんてくれなかった。



「この気持ちがお主に分かるか?分かるわけ無いよな。」



膝から崩れ落ちて、目の前で泣きわめく人間を


僕は、ただ見ているしかなかった。



人間は、立ち上がり、すまないと呟いて部屋を出ていった。




太陽が少し傾いて、赤く染まった部屋に


取り残された僕の頭の中には、彼との思い出が駆け巡っていた。


初めて出会った空き地のこと。


この家に来た時のこと。


一緒に散歩してる時のこと。


記憶の中の僕が言った。


「彼を死なせては、ダメだ。」



決意を胸に、僕は、玄関へ走り


彼がいつも開けてくれる扉の前で精一杯、叫んだ。



「開けて!!彼の元へ行きたいんだ!!」



すると、扉を叩く音と



「うるさいんですけど。」



と言う高い人間の声がして、扉が開いた。


今だ。


僕は、外へ飛び出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る