泣いた死神
音が聞こえると同時に走り出す。
今日も彼が帰ってきた。
いつも通りの大好きな足がそこにあった。
僕は、嬉しくて飛び付こうとしたが、いつもと違う物が彼の足の向こう側に見えた。
「どうした?」
僕は、彼の顔を見上げた。
そこには、不思議そうに僕を見る大好きな顔の後ろに、悲しそうな顔の人間がこちらを見ている。
僕は、彼を守ろうと必死に威嚇する。
「誰だ!!入ってくるな!!」
僕は、その顔を睨んだ。
僕の叫び声が部屋に響く。
「おいおい、どうした?今日は、ご機嫌斜めだな。」
優しい匂いの彼の声にも
返事をせずに叫び続ける。
「すまない、小さき獣よ。」
その人間は、叫んでいる
僕に向かってそう言った。
その声からは、彼と同じ優しい匂いがした。
でも、悲しそうな目は、変わらなかった。
その優しい匂いに、疲れて眠くなる。
大好きな彼は、そっと僕を
抱きかかえてベッドまで運んだ。
「疲れてたんだな。」
僕の背中を優しく撫でる。
「おやすみ」
いい匂いで眠りに落ちた。
目が覚めたのは、夜だった。
悲しい目の人間は、部屋の中で
堂々と宙を仰いでいた。
それだけじゃなく、夜の散歩にも付いてきた。
「ねぇ、あの人間は誰なの?」
不思議に思って大好きな彼に散歩中にきいた。
でも彼は、気にも止めていないみたいで
いつも通り僕を撫でながら、楽しそうに歩いていた。
散歩から帰ってきて、ご飯を食べた。
夜も遅かったので彼は、ご飯を僕に渡すと
すぐに寝てしまった。
僕も寝ようかと思ったけれど、
全然、眠くなかったので、彼の側に座っている人間の隣に座って質問した。
「貴方は、誰?なんで彼についてくるの?」
その人間は、うつ向いて涙を流しだした。
「すまない、本当にすまない。」
僕は、彼が泣いた時に良く慰めている。
だから、人間が目から水を流す時
何か辛いことがあった時だって僕は、知っている。
僕は、大好きな彼を慰めるように
人間の頬を嘗めた。
彼の頬はしょっぱいのに
この人間の頬は、しょっぱくなかった。
すると、人間はやっぱり謝って僕を抱き寄せた。
いい匂いがこの人間からもする。
泣き止むまで慰めるつもりだったが、人間が泣き止む前にいつの間にか眠ってしまった。
啜り泣く人間の声が意識が消える直前まで頭に響いていた。
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