愛すべき、脆い日々へ

顎歌

いつもの幸せ

ガチャ。


扉を開ける音がする。


僕は、ベッドから飛び跳ねて、短い尻尾を振りながら急いで、玄関まで走る。


そして大きくて、大好きな足元が見えるや否や飛びついた。


彼は、バランスを崩す寸前のところで僕を支え、嬉しそうに頭を撫でた。


「おー、ただいま。元気だったか?」


頭を撫でられて、僕も嬉しくなったので、元気に返事をする。


「おー、そうか、そうか。」


そう言うと、ゆっくりと片腕で僕を抱きかかえて部屋の中まで歩いた。


僕は、いい匂いと少しの汗臭さが交じる彼の腕の中が大好きだ。


「さっ、ほら。」


彼は、そっと僕をベッドに下ろす。


何だか寂しくなって彼を見上げるが


「今日は、もう終わりなの?」


と彼に聞いたが、忙しかったようで反応して貰えなかった。


少しだけ落ち込んだけれど、この後の楽しみに比べたらきっと大したことない。


「おーい、少し待ってろよ。」


彼が僕を呼んでいる。


彼の声からは、いい匂いがする。

母親のような、いい匂い。


僕は、ベッドから降りて姿勢を正して彼が来るのを待った。


彼は、奥の部屋から緑の僕の名前が書かれているお皿をゆっくりと運んできて、僕の目の前に置いた。


思わずお皿に飛び付きたくなるが、彼の合図があるまで、きちんと待つ。


「いいか、待てよ。」


短い尻尾を今か、今かと振る。


「よし!!」


彼がお皿に向かって指を指す。合図だ。


「ありがとう。」


今日もきちんとお礼を言ってご飯を食べる。


いつもと変わらないご飯に、いつもと変わらず大好きな彼がいる。


僕にとって、こんなにも幸せなことは、この先無いだろう。


ご飯をたらふく食べた僕は、眠くなってベッドに潜った。


「もう寝るのか、ゆっくりお休み。」


薄れゆく意識の中で彼のいい匂いがした。


ずっとこのまま一緒にいれる幸せを噛み締めて僕は、目を瞑った。

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