退廃的な心持ちが、風鈴の音に融かされてゆく。されど……。

まだ蒸気機関車が走っている頃の、日本が舞台です。
「ただ、やる気を失ってしまった」主人公は、漠然とした不安に駆られ続けています。しかし享楽的な娯楽に爪先が向かうばかりで、自宅の積み重なった書物にはどうも手が伸びない。
そんな折に縁側で腰掛けていたら、いつ買ったかも分からぬ風鈴の音色が、鳴り響く。
触発された男の向かう指先は……。
読後の絶妙なリアリティーを伴った虚無感と喪失感は必見です。