第2話:初仕事
「ここって警察だろ。もしかして逮捕するつもり?」
「ふっ、調べたら罪状がたくさん出そうですね。しかし、心配する必要ありませんよ」
「笑い事じゃねえよ」
イズルの後ろをついて歩いていくが、どうやら地下に用があるらしい。自分に何が起こったか説明してくれるらしいが、聞いたら早く部屋でゆっくりしたい。
「ここです。裏6課、覚えておいて下さい」
「結構建物の奥なんだな」
「見られてはいけないものが多いですから。今から裏6課の隊長に会ってもらいます。いくつか質問されると思いますが正直に答えて下さい」
扉を開けると中は警察署とは思えないような造りで、本棚にソファ、パソコン、キッチンがあり、どちらかというと自宅のような雰囲気だ。
「ようこそレイくん。私は裏6課で一応隊長をしているカオルです」
「はい、失礼してます」
何故か敬語になってしまう。それぐらい緊張するような何かを飼っている。差し出された手を握り返すと彼はニコリと笑った。
「さて、赤い石を実は持ってたみたいだけど、身体に違和感はないかい?」
「どこもないです」
「龍石のことは仕方ない。だけど、その石珍しいから色んな人が欲しがってて、悪いけど裏6課に所属してほしい。要望があれば聞くし、イズルに伝えてくれていいから」
「はい…」
「君が襲われた時、男は何か言ってたかい?」
「いや、特に何も。思い出してないだけかもですけど」
「そう。思い出したら教えてね」
「そいつ、そんなにヤバい奴なの?」
イズルに聞くが、何も答えない。何だろう、このシリアスな雰囲気。
「さて、職と宿だったね。悪いけど宿の案内の前に、仕事をお願いするよ。所属するからには働いてもらうので、覚悟してね」
カオルが出してきた用紙には幽霊車について書かれてある。どうやら乗った人が行方不明になったり、怪我をしてしまう被害が出ているようだ。
「赤い車でナンバーは44-44、スポーツカーだし見つけるのは簡単だよ。謝礼金出るから頑張ってね」
「よっしゃ!やる気出てきた」
「ハンター達も狙ってるから気をつけて。イズル、サポートよろしく」
イズルが一礼し早足で薄暗い廊下を歩いていくため、レイも急いで追いかける。険しい表情にどうしたんだと声をかけた。
「依頼人が富豪です」
「だから?」
「ハンターが報酬金目当てで我先にと狙って、面白がった人が囃し立てると言えば分かりますね?」
「あ〜妨害上等、略奪もアリってことか」
「ハンターが意外にいるんですよ。さあ、改造車に乗って下さい。運転手は小虎さんに任せます」
「よ!イズル、準備万端だぜ。新人も乗りな」
白い鉢巻を巻いたつなぎ姿の男が手を振っている。簡単に自己紹介し後ろの席に乗り込んだ。
「小虎、幽霊車ですが」
「一筋縄ではいかないだろうな。また街がぶっ壊れるからリカバリー隊に話はしておいた。怒ってたけどな」
スポーツカーなんて初めてで、警察はこんないい物使えるのかと驚いた。乗る前に酔い止め薬を貰ったことは気になったが、意外に狭い。
「レイ、下にゴーグルあるから付けとけ」
「え、何で?」
「いいから。すぐに分かる」
イズルも付けているので付けたが、ダサく見えてそうで渋々だ。
「カーナビが監視カメラ経由で幽霊車を発見したようだ。しっかり頼むぜ」
★★★★★
「ここがアナザーワールド?」
現実世界とそっくりの世界に住んでいる人もいるんだと説明を受けたが、SFの世界かよと半信半疑だった。実際、白い煙が両端から流れている暗い道を通っているとワープ地点を越え、明るくなった。振り向くとトンネルで、空には細長い蛇のようなものが浮いている。見渡すが確かに普段歩くスター通りと街並みは一緒だった。
「ここでは予想外の連続です。自分の命を最優先に考えて下さい。いいですね?」
「でも、幽霊車を捕まえなきゃだろ?」
「今回の新人はイキがいいね。よっしゃ、レイには頑張ってもらうぜ。前、見ろ」
アクション映画のように荒い運転捌きで、目的の赤いスポーツカーが前方を走っている。小虎がボタンを押すと座席から引き出しが飛び出し、イズルが拡声器を取り出して叫んだ。
「こちら裏6課です。そこの赤いスポーツカー、今すぐ止まりなさい!止まらない場合、攻撃します!」
「返事ないっすね。そもそも運転手に聞こえてるのかも怪しい」
「仕方ありませんね。こちらから乗り込みましょう。まずは貴方から乗り込んで下さい」
「おう!任せとけ!」
飛び乗れるようスポーツカーに近づいてもらい飛び乗る。後部座席は柔らかく体勢を崩しそうだったが、なんとか運転席に座っている男を揺り動かす。だが、肩を揺らしても叩いても反応がない。
「くそっ!止まれって言ってんだろーが!って、うわっ」
何もしていないのにスポーツカーは速度を上げレイを振り落とそうとしてくる。イズルは札を取り出し発火させてタイヤを狙って投げるが、傷ついてもすぐ戻ってしまう。
「悪いようにはしねえって!廃車とかしないよう説得してやるからよ、乗ってる奴ら解放しろ!!」
ブレーキを踏み、他の車にぶつからないようハンドルをきる。歩道に突っ込むわけにはいかない。
「レイ!イズルが壁を作るからそこに突っ込め!」
「雲よ、我の声を聞きたまえ。汝の力で壁を作りたまえ。天界法守 雲海壁!!」
イズルが唱えると空には雲が渦巻き道路に向かってくる。周りの人や車はすぐさま避難し、その間にも厚い層になって雲の壁が建てられる。
「うわあぁぁああ⁈」
綿菓子のように柔らかく突き抜けると思いきや、クッションのように少し押し返された。しかし、雲の壁に突っ込んた部分は掴まれたように動けない。
「よく耐えたな。だが、次はギャラリー達だぜ」
「ギャラリー?」
全員避難したものだと思ったが、隠れていたのかぞろぞろと出て、こちらを見ている。
「この車を依頼者に引き渡すまでが仕事です」
「その車、こっちに渡してくれよ警察」
戦闘する気満々な筋肉質の男や、武器を持った男が近づいてくる。車から降りイズルの隣に立つ。
「体動かしたい気分なんで、俺に任せてくんない?モブみたいな奴もいるし」
「ここの連中は表の奴らと違うんですよ」
「どれぐらい違うか試したい」
「…分かりました。車は任せなさい」
「よっしゃ、腕が鳴るぜ」
「いいのか?」
「はぁ、力の使い方を教えるいい機会です」
イズルの溜息に、小虎は肩をポンと叩いて労う。そうとは知らずレイは挑発するかのように煽った。
「いつでもいいぜ、かかってきな、三流ハンター!」
血の契約と怪物たち 水玉ひよこ @red15
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