血の契約と怪物たち

水玉ひよこ

第1話:ツイてない日

痛い。

殴られた所が腫れている。数日も食べていない。雨に打たれて身体が冷えていた。なんとかしたくても身体が動かない。


(あ〜しくじった。くそ野郎)


「おい大丈夫か?傘もささずに寝転んでいると風邪ひくぞ」


「う…(誰だ…お前は)」


「しっかりしろ。すぐ運んで…」


うっすらと金色の髪が瞳に映るが、結局意識を手放してしまった。


★★★


「眩しい」


「目が覚めたようだな、レイ・ツムギ」


久しぶりにベッドの上で寝た気がする。家は無く酒を飲み賭け事を楽しみ人の家で世話になる生活。代わりに小さな仕事を手伝ったりボディガードもしていた。だが、近所で見かけない白髪の男に目をつけられ売り言葉に買い言葉。結果、喧嘩に負けてしまい最近ツキがない。


「医師に診てもらったが、傷口が開かないよう安静にしておくようにとの話だ」


「助けてもらったのは感謝するが一文無しでな。治療費なんて払えねえぜ」


「払わなくていい。だが、コイツとどういう関係か聞きたい」


太陽の光で更に輝いて見える金色の髪を三つ編みにした男は、懐からニ枚の写真を取り出した。そこには酒場で喧嘩をふっかけてきたガタイのいい男、そして眼帯を付けた短髪の男が写っている。


「コイツは知らねえが、白髪の野郎は俺のこと殴った奴だ」


「その時何か言われたか?もしくは何か探していたりは?」


「いや、特には。あ、赤いペンダントが何とか」


「そのペンダントはどうした」


「それが何か関係あるのかよ」


金髪の男は黙って席を立とうとするので、すぐさま手を掴む。


「おい、あんたの名前は?」


「知ってどうする」


「どうもねえけどよ。俺だけ知らないってのは嫌だし、また会いそうっていうか」


「…イズルだ。失礼する」


怪我人の握力では振り払われてしまい、そのまま出て行ってしまった。


「なんなんだ一体」


一週間後に気付いたことだが、黒い兎が描かれた名刺と少しの硬貨だけ持って退院した。気に入っていた黒い衣服は穴があいていて着れなくなっていた筈だが、穴は塞がれている。あの男が縫ったのだろうか。


「携帯に繋がらねえ。仕事すっぽかしたから怒ってんのかビリー」


公衆電話からかけるが繋がらず、苛立ちながらビリーの家に行くことにした。ビリーはタクシー運転手で、仕事を貰っている間柄だ。気さくで世話になっている人も多い。家に向かう途中で知り合いに会っては居場所を聞いたが、気まずそうな表情をされた。

しかし、そのままにしていては無職確定だ。あと気になっていることもある。

酒場に行って木箱を受け取ってくるよう頼んできた時、絶対中身を開けるなと言ったのだ。かなり念押しされたが、そこまで言われたら気になる性格だ。こっそり見たが、そういえば赤い石のネックレスだった気がする。だが、ビリーの趣味では無いし、顧客に金持ちのお嬢様がいるとも思えない。第一、自分より他の、小綺麗にしているトムに頼めばいい。

何故レイに頼んだのか。

レイのなかでひっかかり、連絡をとりたかったのだ。


「は?」


ビリーの家に着くが玄関前には燃えるように真っ赤な髪をした男と大人しそうな黒髪の青年がいる。黒髪の青年はビリーの知り合いにはいないタイプで、こちらに気付いたようだ。だが、それよりもビリーの家の二階が破壊されており、何か良くないことが起きたと分かる。


「あの、すみません。少しお尋ねしたいことがあるのですが」


「こっちも聞きてえことがあんだが、お前らビリーの家の前で何してんだ」


ただの学生とチンピラには見えない雰囲気を感じ、先程トムからくすねたナイフを後ろ手に構え、すぐ戦えるようにする。


「おいおい兄ちゃん、こうみえて俺強いのよ。戦うならやめた方がいい」


「こら、左京!私は湊、彼は左京です。ここの家主の方に用があったのですが連絡つかなくて困ってるんです。すみません、話を聞きたいだけなので落ち着いてもらえませんか?」


左京と俺の間に入り戦う意思はないと示してきたが今迄の勘から何か関係があることは分かる。


「信用できないと言ったら?」


「そうですね。本意ではないですが少々手荒なことをするかもしれません。すみません」


「虫一匹も殺せないようなボンボンな顔して、やる気満々じゃねえか」


「何がやる気満々だ、君は」


「うわっ!?」


後ろに立たれていると気付かず距離をとるが、そこには見慣れた男が呆れた顔で立っている。


「あの、金ピカバニー、いてーっ!」


「それは私のことではないですよね、レイ・ツムギ。私にはイズルという名前がありますので覚えておいて下さい」


金髪の髪に兎のカードを残した怪しい男なのだからつい口に出てしまった。だが、イズルという男が、もうすぐ戦闘になっていたであろう二人に挨拶している姿を見て、やっと警戒心を解く。


「もう帰ってたんですね」


「ええ、僕もずっと寝ていたら身体がなまりますから。それで、彼とは知り合いなら紹介してもらっても?」


「おい、教えんなよイズル」


「さっきレイと呼んでしまったのですが…彼らは同業者ですから問題ないですよ」


「なんか危ねえ奴だろ!関わる気ないね。俺は人探してんだ、じゃあな」


ビリーのことを聞き逃したが仕方ない。長年の勘で関わらない方が賢明だと判断し、さっさとその場を離れる。


「いいんですか、彼」


「…なぁ、アレに関係してんのか?」


「ええ、まあ。私はレイを追いかけます」


★★★★★


ビリーが寄りそうな場所に立ち寄るが、目ぼしい成果はない。これは何か知ってそうなトムに聞く方が良さそうだ。しかし、先程から自分を尾行している奴を撒く必要がある。

角に差しかかったらすぐ曲がって走ろう。そう思っていたが前方からふらついた足取りの50歳ぐらいの老人がレイに向かって歩いてくる。


「大丈夫ですか〜?」


「うっ、おえっ」


「き、きゃぁぁああああ!?」


買い物帰りの女性が心配して老人に声をかけたが、すぐさま悲鳴をあげた。老人の口から銃口が見え、レイに射撃する。

すぐさま避けるが諦めていないようで、角を曲がっても追いかけてきた。


「何で追いかけてくるんだよ!」


曲がって人通りの少ない小道を選ぶが、周囲を気にせず銃を撃ってくるため周りの建物が破壊されていく。


「おいおいおいおい!!マジかよ、イカれてやがる!」


走りまわっていては埒があかない。銃人間をその場に留まらせる方法を考えないと御陀仏になる。

厄介なのは弾道が曲がりナイフでカバーするしかない状況だ。刃こぼれし始め、じきに使えなくなる。


「くそっ、いっ、てぇーな!どこかに武器ねえのかよ」


こんな時に頭が痛くなり、怪我した部分が熱を持っている。何でもいい。勝てるなら悪魔にだって頭下げてやる。


『本当なら契約するよな?』


「けい、やく…?」


『唸れ』


「唸れ?なんだ、何か思い出しそうなっ…」


『赤血刀』


「ブラッドソード!」


頭の中で響く声につられて声を発すると手のひらに陣が浮き出て血が垂れ、刀の形に硬化する。


「なんか分かんねえが、これで戦うしかねえとはな!!」


「ワタセ…イシヲ…」


「えっ、石?なんだよ、てめえも赤い石目当てかよ。悪いな、どこかに行っちまった」


「ウソ」


「嘘じゃねえ…って言っても始末するって顔してんな」


全てが赤い刀を持ちながら老人の方へ走り、素早く胴を真っ二つにする。やったことなどない。だが、ドラマで見たことのあるように刀をスライドさせると綺麗に出来たのだ。


「なんか知らねえけど、しっくりくるな。気に入った。これでボディーガード会社に売り込むか」


ビリーがいないならば自分で新しい職場を探すしかない。このまま放置してあとは警察に任せよう。


「さっさと退散するに限るな」


「どこに行くんだ」


「え?お前!」


レイと反対方向から歩いてきたのは険しい顔をしたイズルだ。手には見知らぬ男で、のびて襟を持たれたままひきずられてきたようだ。


「お前も石を狙ってたんだったな」


「石の場所は分かっている」


「え?」


「さっき君が手のひらから出していただろう。あれが通称・龍石と呼ばれる、怪物を閉じ込めた石だ」


「あの男に木箱ごと盗まれたかと思ったが俺の手の中に…入れた覚えがない」


「かなりの傷を負っていたから、石が勝手に体内に入ったのでしょうね」


「え、えーっ!?どう取り出すんだよ!」


「契約したので、向こうが飽きるまで待つか、死ぬかです。どうしますか?」


「死ぬってマジ?」


「はい」


「死ぬぐらいなら待つしかないが」


考えたふりをしチラッとイズルを見ると、察したように携帯を取り出す。


「部屋を借りれます。ですが、働いてもらいますよ」


「おう、しばらく厄介になるぜ」


こうして謎を抱えたまま約束を取り付け、イズルの職場へと案内してもらうことになったのだった。

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