KAC2022 推しに真っ赤な花束を!
かざみまゆみ
第1話 推しに真っ赤な花束を
その日、僕は彼女のために真っ赤なバラの花束を買った。
理由は簡単。
彼女の誕生日に、彼女が大好きな赤いバラの花束を用意したんだ。
彼女を久しぶりに見かけたのは、たまたま得意先へ行った帰りの駅前だった。
KAYA。
10年ほど前にアイドルグループの一員としてメジャーデビューし、その年の年末に行われた歌の一大イベントにも初出場していた。
その後、グループはメンバーの不祥事が発覚し解散。彼女たちは一発屋の烙印を押されて芸能界から姿を消していた。
駅前で路上ライブを行うKAYAはデビュー当時の可愛らしいポニーテールをやめ、大人っぽいショートカットに変えていた。
真っ赤なTシャツを着て、手にはギターを持ち以前の面影は全く無かったが、僕はすぐにKAYAだと気付いた。
KAYAはシンガーソングライターとして活動していたが、以前と変わらぬ上質なシルクのような優しい歌声は全く変わっていなかった。
改めて彼女の歌に聞き惚れた僕は、その場で手売りのCDを買いSNSをフォローすると、足繁く彼女のライブへ通うようになった。
KAYAのライブは小さなライブハウスが多かったが、少ないながらもファンの熱量は高く毎回大盛り上がりだった。ファン同士の絆も強く、仲間と一緒に地方まで遠征に行く事もあった。
ライブに参加出来ないときは配信で投げ銭を送ったりSNSを拡散したりして楽しんだ。
彼女は赤色が好きで、バースデーライブの日にはファン同士で何本のバラの花束が用意できるか競い合った。それは、あまりにも加熱しすぎてKAYAからプレゼント上限命令が出される程だった。
あるライブの日、アンコールで出てきたKAYAは真っ白なウェディングドレスに身を包んでいた。彼女はサプライズで入籍発表をした。周りの仲間達は推しの結婚に涙を流して悲しんだ。
僕は「KAYAには真っ赤なドレスのほうが似合うのになぁ」と思いながら祝福の拍手をした。不思議と涙は出てこなかった。
推しの結婚を受けて、ライブに来る熱心なファンはだいぶ減ってしまった。
それでも僕はKAYAのライブやイベントに行った。
僕の愛は変わらない。
そして翌年の彼女のバースデーライブ当日、僕は決行した。
花屋で予約した真っ赤なバラの花束を胸に抱き、彼女の笑顔を想像する。
それだけで僕は幸せになる。
足取り軽く家路につくとドアを開けてこう言った。
「KAYA! 君が大好きな赤いバラの花束を買ってきたよ!」
彼女は真紅のドレスに身を包んで僕を出迎えてくれた。
KAYAは自らの血で純白のドレスを赤く染め上げていた。
やっぱりKAYAには真っ赤なドレスが似合うね。
そう言うと僕は冷たくなった彼女の唇にキスをした。
僕のスマホがSNSの通知を鳴らす。
『本日のKAYAバースデーライブは諸事情につき中止とさせていただきました』
KAC2022 推しに真っ赤な花束を! かざみまゆみ @srveleta
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます