その30.年越し

「しんくーん! 優たーん! あけおめことよろー!」

「姉貴、まだ今年は終わってないから。あと30分あるから」



 やあ、皆さんこんばんは。きっちゃんだよ!


 今、俺の目の前に立ち意気揚々と真也宅の玄関を開いた女性は、初登場の俺の姉貴である。

 城田桜、32歳。職業は秘書。身長170センチのEカップで彼氏無しだ。


 弟から見ても美人である姉になぜ彼氏がいないのかと言うと、



「さくらちゃんだー!」

「マイエンジェル優たーん! 久しぶりー! 相変わらず可愛いねぇ食べちゃいたい! 性的な意味で!」



 ご覧の通り、ロリコンの変態だからである。まったく……健全紳士の俺とは真逆だぜ……。


 おっぱい星人はその谷間に優ちゃんを抱き、部屋の奥へ入って行く。

 あ、今日は皆で年越しをするからだぜ!



「しんくーん、久しぶり!」

「ああ、桜さん。こんばんは、お久しぶりです」



 キッチンに立ち、営業スマイルではない朗らかな笑みを浮かべる真也。

 ……は、何やら白い塊をこねくりまわしている。



「もうすぐ手打ちそばが出来上がるので、適当に座っててください」

「真也、お前は一体何職人を目指してるの?」



 頭に巻かれたタオルと、額を伝い落ちる汗がとても様になっている。


 貫禄が出てるぞオイ。



「しんくんは相変わらずパーフェクトボーイだねぇー! 旦那に欲しいわー!」



 言うなり、真也の頭を掴んで谷間へ突き落とす姉貴。

 ……いや、さすがに羨ましいとか思わないよ?同情はするけども!


 きっちゃんはただの女性には興味はありません!

 この中に、優ちゃん・高峰優ちゃん・エンジェル優ちゃんがいたら私の所に来なさい!以上!



「すみません……俺は妻を一生愛してるので」

「はーっ! 羨ましいなぁ翠さん!」



 あ、翠(みどり)さんは亡くなった奥さんの名前だ。



「でも翠さんいなくて溜まってるでしょ? 性欲を持て余してない? 風俗で処理してるの?」



 誰かこのデリカシーが死滅した女をどうにかしろ。



「よし! 私のおっぱい揉んでよいぞ! ホレホレ!」

「いえ、間に合ってますので」

「生地揉みながら言うな私はそば以下か? 金玉ねじり取るぞ」



 額に青筋を浮かべる姉貴を無視し、真也はそば作りを再開する。


 姉貴は真也を睨んでから、



「もう! おこだよ!」



 とか言いながらリビングへ移動した。



「おこだよ!」



 復唱する優ちゃんは死ぬほど可愛い。


 そんな彼女に向かって、俺は千切れんばかりに手を振る。



「優ちゃんやっほー!」

「きっちゃんやっほー!」



 一瞬にして咲くエンジェルスマイルが眩しすぎるぜ……!目の保養だ……癒される……!


 駆け寄ってきた優ちゃんを抱き留めれば、



「樹久! 貴様、私に反逆する気か!?」



 慌てた様子で優ちゃんを奪い取る姉貴。



「俺と優ちゃんとのイチャイチャタイムを邪魔するなよ! 駆逐するぞ!」

「よく喋るな、豚野郎」



 このおっぱいオバケ殺してもいいかな?


 真也には頭が上がらないが、姉貴には噛みつきまくるよきっちゃんは。

 だって真也、上司だし……俺、アイツの秘書だし……背負い投げ、痛いし……。



「優こりんは私のものです!」

「苺の馬車に乗って一人でこりん星に帰れ」

「うっせークソムシが」



 虫?やっぱり俺、虫なの?



「いちごのばしゃ!? かわいい! ゆうものりたい!きっちゃん、こんどのせて!」



 苺の馬車というワードに食いついたマイエンジェルは、輝く瞳で俺を見上げて腰に抱きついている。


 幸せすぎて死にそうだよきっちゃんは……。



「その日、我々は改めて実感した……高峰優ちゃんの可愛さを……!!」

「ゴッフ!!」



 優ちゃんを奪い取るため、姉貴は俺の鳩尾にタックルを決め込み優ちゃんを抱き上げた。


 さすがのきっちゃんもキレちまいそうだぜ……。



「駆逐してやる……姉貴は、この世に一片のDNAも残さずに駆逐してやる!!」



 新年まで残り10分。

 姉貴に掴みかかる俺。優ちゃんをいったん床に降ろし、俺の腕を掴むと綺麗な背負い投げを決める姉貴。


 三秒で敗北した。



「こんなおっぱいのでけぇヤツには勝てねぇってことか……」



 床に伏せたまま涙を流せば、姉貴は高笑いしながら俺のケツを蹴る。


 ……っていうか何でどいつもこいつも背負い投げが得意なの?

 普通できないよね?どこで習ったの?俺の28年間の人生の方が間違ってるの?



「できたぞー」

「そばだー!」



 新年まで残り8分。そば入りのお椀を両手に真也が颯爽登場。


 優ちゃんと姉貴はすぐさま着席する。



「熱いから気をつけろよ、優」

「うん!」

「ちょ、真也、ナチュラルに人の上に座るのはやめよう?」



 気づかなかっただろうけど、俺は椅子じゃないんだぜ!!



「あ? 立ってろってか?」



 座ったまま上から頭を小突くのはやめようか真也。卑怯だぞ高峰くん。



「美味しそうー! いただきまーす!」

「いただきます!」

「いただきます」

「いやあの、若干一名いただけないんだけど」



 まず真也に椅子として扱われてるから体を起こせない。ゆえに、食べられない!


 新年まで残り、



『3! 2! 1! あけましておめでとうございまーす!』

「ファッ!?」



 テレビから聞こえた司会者の言葉に絶望した。


 きっちゃん踏まれたまま年越したよ!?そばも食べられてないよ!?



「あけましておめでとう、樹久」

「いや、全然おめでたくないね? 真也くん、俺の状況を見て?」



 イケメンスマイルで誤魔化せると思ったら大間違いだ!



「クソッ……今年こそ優ちゃんを奪ってやるからな……!」

「いや、優たんは私がもらうから」

「お前ら二人とも除夜の鐘で煩悩ごと消してやりたい」



 まあ……今年もこんな感じでよろしくな、真也。


 あと、熱々の汁を鼻に垂らすのはやめてくれ……。

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チート級にハイスペックでイケメンの友人が、天使のように可愛い娘ちゃんを溺愛しすぎている件について。 百崎千鶴 @chizuru_mo2saki

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