夜の星

ねだりちゃん

第一話 その夜

私はその夜、父から性を教えられた。

その公園は、蒸すようにジメジメとした空気に夏の匂いがこびりついていて、蝉時雨が降っていた。

数秒、何が起きているのか分からなかった。だが私を押し倒して口を塞いだ、父の炯々としたあの目を見た瞬間、唐突にその意味を理解した。

どろどろと、ねっとりとした恐怖、辛痛、重苦の塊が私の体に絡みつき、全てを食い尽くした。

抵抗する選択肢が失せてふと上を向いたとき、私の体と意識が切り離された。

夏の匂いも、蝉のけたたましい叫び声も、下腹部でのたうち狂う鮮烈な痛みさえも、その一瞬で忘れてしまった。

そこには、海のように深く広がる暗闇の中で、燦然と輝く星々が、私たちを嘲笑うように浮かんでいた。

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夜の星 ねだりちゃん @nedarichan

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