闇深少女と僕。
ヘイ
闇深少女
「おはよ!」
「……はよ」
「今日も元気ないね。大丈夫?」
「ほっといてもらって」
明るい。
なんか、今日も明るい。
僕とは住む世界が違う。というかテンション感が違いすぎる。誰にでも挨拶してるし。入学式から二日。僕の隣の席の……名前、なんて言ったっけ。
「おはよー!」
凄いな、ほんと。
僕には出来ないな。義務感で挨拶するにしても、そんなの教師に言われなきゃやらないのが当たり前。
名前、何て言ったっけ。
「
二日前に机の中に放置していたクラス名簿に書いてたな。
「ただいま、
「……おかえり、卜部さん」
僕としては彼女を特別には思わない。
特別というよりは区分的に陽の世界に住まう存在というか。陰陽があって、僕は陰の側で彼女とは世界的な隔たりがあるというか。
「あは、名前覚えててくれたんだ」
「卜部さんでしょ? まだ全然。卜部さんのことをちょっと覚えたくらいだし」
クラスなんて名前を覚えれない。
僕の中学時代は酷いもので二ヶ月かけても全員の名前を覚えられなかった。席替えもあるものだから、よっぽどだ。
「日向でいいよ」
「……それじゃ日向さん」
「うん。じゃあ、私も真白くんって呼んでいい?」
「自由にしてよ。別に僕はこだわりなんかないから」
影山とか呼ばれたくないわけじゃないし。
「そう言えば、日向さんってクラスの名前全員覚えたの?」
「……そうだね」
なんか躊躇った?
いや、別に僕が気にすることじゃないか。
「すごいね」
「そうかな?」
日向さんは積極的なタイプ、のはず。
「みんなの自己紹介も覚えてるよ」
たとえば〜。
なんて、空中を見上げながら「真白くんのことは」と、話し始める。
「南中出身、中学時代はバスケ部。好きな食べ物はクリームシチュー、嫌いな食べ物はホルモン。誕生日は7月8日……」
「すご……全部あってる」
全部言った覚えがある。
いや、言った覚えがあるもの全部彼女が覚えているのか。
「日向さんって記憶力すごいのかな」
漫画とかでよく見る完全記憶力、的な?
「あはは、そんなんじゃないよ。ただ、早く馴染みたくて全員のこと覚えただけだよ」
照れ臭そうに日向さんが笑う。
顔も整っているからか、彼女が笑う顔はとても綺麗だと思う。
──闇深少女と僕。
『4月5日
隣の席の影山 真白くんが私の事を覚えていてくれた。
真白くんはクリームシチューが好き。誕生日は7月8日。
私の名前を呼んでくれた。
挨拶をしていた甲斐があった。皆んなに覚えて欲しい
』
日記を書くのは日課にした。
高校生になった私の、日課。
「あは……」
笑顔の練習。
そうだ、みんなのことちゃんと知らなきゃ。真白くんはクリームシチューが好きで……。
………………。
…………。
「覚えなきゃ……笑顔で、挨拶。大丈夫、大丈夫。お父さんは帰ってこないし、お母さんも……」
家に帰ってこないから。
笑顔の練習だ。
「えへ……」
媚び諂って。
お父さんが居たらできないから。
お母さんは私の笑顔を見たら怒るから。
「笑えてるよ。私、笑えるんだ……」
口角を上げて。
「ちゃんと、覚えて……嫌われない様に。真白くん、嫌いになってないかな……」
あの時、ちゃんと笑えてたかな。
気持ち悪いって思われてないかな。
闇深少女と僕。 ヘイ @Hei767
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