第2話 純文学? エンタメ? それとも
小説家を目指すのなら、早めかつ具体的に定めておくべきことがある。
自分はどんなジャンルの書き手になりたいのか、だ。
もしも私が、過去の自分に何かメッセージを伝えられるとしたら、これだ。
「書店のどの棚に自分の本を置いて欲しいかを、常に意識しろ!」
小説家になりたい! と言いつつ、当時の私はどんなジャンルの作品を書きたいかが具体的に定まっていなかった。というより、何でも書けるのがいい小説家だと勘違いしていた。エンターテインメント作品を書きたい、というのは漠然と思っていたけれど。
私が通っていた文学学校の生徒は、ほとんどが「純文学」を志す人達だった。
そして、彼らのうちの何人かは、純文学は高尚、エンタメやラノベは俗っぽいもの、と見下していた。
合評にエンタメ作品を出すと、必ず「低俗」「どこかで見たような」「人間が書けていない」という批評をいただいた(もちろん、私の力不足でもあるのでそこは具体的な指摘をもとに改善努力をしたが)。
それでもエンタメ作品を提出し続けていたら、クラスでも一目置かれている人にこう言われた。
「まあ、君はエンタメしか書けないだろうけど」
この一言で、負けず嫌いな私の闘争心に火が付いた。
「純文学が書けないんとちゃうわ! 書けるけど、あえてエンタメなんや!」
……という台詞を言うために私は、執筆する作品を純文学にシフトしてしまったのである。アホやー。
文学学校に入って良かったことの一つに、「寄せられる批評の取捨選択ができるようになる」というのがある。
自分の作品に対して寄せられる批評については、なかなか冷静に判断できない。けれども他人の作品に対しては、「もっともな意見だ」「それは気づかなかった」「いやそれは誤読やろ」「自分の批評に酔ってるな」と比較的まともに判断できる。
そうする内に自分の作品に対する批評も、聞くべき批評とそうでないものを選べるようになってくるのだ。
それなのに! なぜ当時の私はあの戯れ言を捨てることができず、意地になって純文学を書き始めてしまったのか。
結果的には、しばらく純文学を書いていたこともプラスになったのだけれども、タイムロスになったのも確かだ。純文学とエンタメでは書き方がまったく違う。
エンタメを書きたいのなら、外野に何を言われてもそれを貫くべきだったのだ。
もう一つ言うなら、もっと広い視野で情報収集するべきだった。一般文芸とライトノベルの中間に位置するライト文芸が興隆していたが、私はかたくなに一般文芸の賞に応募し続けていた。私の作風からするとライト文芸の方が合っていたから早急に研究すべきだったのに。
嗚呼、あの頃の自分に教えてやりたい!
私が突然純文学という泥沼に踏み入ってしまったように、文学学校ではしばしば周りの人に引きずられてしまう現象が見られた。
クラスには大抵、いい批評をして皆に一目置かれている人というのが一人二人いて、その人のお眼鏡にかなうような書き方をしてしまう。それは「文学学校では」ウケのいい書き方として踏襲されていく。(ちなみに、チューターは偏らないようちゃんとフラットに指導してくださっていた)
在校中、外部の書き手さんに「O文学学校の生徒さんはみんな同じような書き方をするが、そういう指導をしているのか」と指摘を受けたことがある。
正直、目から鱗だった。その人が具体的に指摘したことは、まさに文学学校生が好んで使う表現方法だったから。知らず知らず、井の中の蛙になってしまっていたのだ。
私が文学学校在学中に、何人かのクラスメイトが新人賞を受賞してプロになるところを目撃した。
彼らの特徴は二つ。
決して井の中の蛙にならず、広い視野を持っていた。
年間で原稿用紙千枚以上書いていた。
多くの文学仲間に接した中で、この二つができている人(特に後者)は片手で数える程しかおらず、彼らは皆プロデビューを果たした。
執筆量については、私は「量質転化の法則」はあると考えている。
累積執筆量がある地点を超えたあたりから、メキメキと上達し始めるし、長編を完結させることでも経験値がグッと上がるように、周りを観察して思ったし自分自身も感じた。
紆余曲折を経て、私は自分の目指すジャンルで、まずは執筆量をこなすことを目標に頑張ろうと誓ったのであった。
ちなみに、私が文学学校在学中に受けた作品批評で最も理不尽だったのがこちら。
「龍なんていません!」
龍が出てくる現代ファンタジー中編を提出したところ、いつも私小説を書いている初老の女性からガチギレ気味に言われてしまった。
かのジョージ・ルーカスは、「宇宙空間ではビーム音や爆発音は出ないはずだ」と指摘されたときに、「俺の宇宙では出るんだよ」と反論したそうだ。
ならば私もこう言おう。
「私の世界では、龍はいるんだよ!!!」
※そのとき批判された小説をもとに書き上げた作品がこちら。第一部の終盤で龍が飛びます。
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