第2話 一騎打ち

「おい、私を守れ」

 

 ファウストの鶴の一声で、部隊の誰もが赤いユニークFAを囲んで


「ファウスト様! それは悪手です!」


「私を守れるんだ。きちんと家に帰れば取り上げてやろう」


 と、煽るように言って。

 しかし、俺以外の奴らはファウスト様の言いなりである。

 

 ドゴンっ!


 炸裂したそれは、俺の操縦するタイラネンのメインフレームに傷をつけて


「なんだ!?」


 ファウストが反応して

 次の瞬間には、ファウストの取り巻きのタイラネンの2機が弾け飛んだ。


 俺に傷をつけたのは、爆散した味方のタイラネンのパーツだったと認識するまでに時間がかかった。


 ますます固まるファウスト一行だが、ファウスト自身が乗るFAはユニーク機体として一回り大きいために、周囲の量産型タイラネンから頭が抜け出ている。


 次々に投擲されるそれらに、味方は認識もせず、手も足も出ず死んでいく一方で。


 俺はそれを一人で遠目に見て、まとまった「的」から離れているために標的になっていない状態だった。


「おい、私が死んでしまうだろう! 早く移動するんだ!!」


「ファウスト様。それは無茶です!」


「うるさい。黙って従っていろ!!」


 声が荒ぶっている。

 敵に囲まれており、絶体絶命。

 

 しかし、部隊が半壊した現在。

 霊峰を超えてこれる程の軽量化したFAでは大した武器も量も無いだろうと。


 俺は、覚悟を決めて森にハイドしながら敵を目指し移動を始める。

 

 気がついていないのか、それはすぐ近くにいた。


「ははっ。どんな過酷なミッションかと思えば、帝国人の入れ食いだなぁ、おい」


 それはまさに、【骨】だった。

 外装はシルバーに塗装されているのが第一印象を強める。

 タイラネンに見慣れているからか、敵FAは細く見える。


「脆そうだな」


 俺は小さく呟いて、タイラネンの拡張武装であるソードをゆっくりと抜いた。

 武装と言いつつ、その大きさはナイフのような刃渡りの小さなものだ。


 振りかぶり、


 バキィ!!


 見た目通りにその【骨】はタイラネンからの打撃には耐えられるはずもなく、真っ二つになり崩れ落ちる。


 中から這い出てきた人間をタイラネンで踏み潰して、俺は顔を歪める。


「俺が後ろに来ても気が付かないほど人を殺すのに夢中だったのか。

 それとも、軽量化でセンサーも外されていたのか」


 近代のFA戦闘に置いて、人間が生身でできることはあまりにも少ない。

 だが、訓練では「トドメ」を執拗に教え込む。その結果、今の一連の流れも自然にできていた。

 それに対して、俺は顔を歪める。


「初めて人を殺したと言うのに、意識もしなかった」


 戦闘は人間を狂気に追い込む。

 追い込まれた自覚はないが、味方が死んだときに俺の潜在的な意識も麻痺してしまったのだろうか。


 【骨】の集団だと考えていいだろう敵は、一人を欠いたのに誰も反応しておらず

 俺はそれをチャンスだと捉えた。


「二体目も簡単に行けそうだな」


 【骨】の銀色が、周りの景色に溶け込んで分かりづらいが

 それでも、タイラネンの拡張武装である3Dマップには、敵が浮いて見えていた。


 誰も使用しようともしない武装である3Dマップは使用FAのメモリを大幅に喰らう。というのも、景色をマップとして捉え、データとして蓄える。それを視界として表示するものだ。つまり、いつかの過去に記録したデータを参照しているため、第1師団のような同じ道を周回するような仕事以外役に立たないどころか無意味なのだ。


 しかし、同じ環境で戦闘をするなら、視界すべての距離感、大きさ、データとして蓄積されているため、いつもと違う箇所はすぐに認識できる。


 俺は、この霊峰の麓の周回警戒任務であることを知って直ぐにタイラネンに装備させた。それが今活きていた。


「近くには、2体、か」


 どれだけ気配を消そうにも、タイラネンの超重量は足音を出してしまう。

 それに気が付かれないように

 ファウスト様が「的」として生きている今がチャンスなんだ。


 自分の雇い主である貴族。次期当主である彼に不敬だと認識する前に

 それ以上のチャンスを逃すわけにはいかないと。


「死ね!」


 ガスンと【骨】が、人型の逆方向に折れ曲がり赤い液体を垂れ流した。

 オイルか、血か。3Dマップの視界には判別ができなかった。


「3つ目!!」


 と、振り下ろしたナイフは、瞬時に反応して振り向いたその【骨】に受け止められる。


「っ!?」


「稚魚の中に異形が混じっていたか」


 初めて真正面から見た【骨】は、コックピットであろう部分が少し補強されて膨らんでいるだけで、それ以外は「棒」だった。


「稚魚のみであれば良かったが」


「王国兵か?」


 俺が尋ねると、豪快にがっはっはと笑った。


「正に。我はゴードン。

 ゴードン・フランシス・フォン・アドマイヤー。

 【王国十二騎士】第二席である」


「なっ!?」


 絶句。


 その間にも、【骨】の一味がファウストたちを蹂躙しており、

 通信回線にはたくさんの断末魔と、破壊されたタイラネンのログが並ぶ。


 【王国十二騎士】とは、帝国の【三大将】にも並んで外国までその名声が轟く称号である。

 その第一席ゴードンとは、現代FA操者では知らない者はいない伝説だった。

 

「? 第二席? 人違いか」


 なんて声が漏れ出ており、ゴードンから返答が返ってきた。


「如何せん、もう歳だ。

 一席は譲ったさ。十二騎士も返還しようとしたが、居てくれと頼まれてなぁ。

 はっはっは。それも何十年前の話か。いつしか、嵌められてこんな最前線に来てしまったようだ」


「本物か……」


 俺の中の「なにか」がギラギラと滾るのがわかった。

 伝説のFA操者が目の前にいるのだ。

 興奮しないわけがない。しかし、俺のそれはまた別のところから来ているのは認識できていた。


「運が、回ってきたな」


 幸い、他の【骨】たちはこちらに気がついていないし、ゴードンも気づかせる気がないみたいだった。


「さて、老兵は若いもんに現実を教えんとな。

 戦争とは…………ただの虐殺だわい」


 構え。

 自然と俺とゴードンは一騎打ちの姿勢に入る。

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ナイツオブアーカイバー 藤乃宮遊 @Fuji_yuu

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