第1話 聖戦のはじまり

 霊峰赤龍山。

 

 かつて2000年前の竜王戦役時に赤龍が居を構えたという。

 その麓に帝国第一師団が駐屯していた。


「はぁー、かったりい。

 どうせ見回りなんざしても意味ないっつの」


「見回りですが、これも訓練です。

 FAを自分の体と同じように動かせるようにならねば

 次の帝国リーグでまた負けますよ」


「は? バカにすんなし。

 オレは相手が先輩だから花をもたせてやっただけだ」


「そうでしたね。申し訳ありません」


「そうだぞ。使用人風情が口を出すんじゃねえ」


 周りの木々は霊峰のマナを受けた影響かFAよりも背が高く、

 視界が悪い。

 ここに敵が潜伏していても気が付きづらいだろう。


 そのための巡回であり、第一師団の数少ない任務の一つ。


「今日も何もねえ。

 おい、お前。

 報告しとけ。オレはかえって寝る」


「え? ちょ、だめですって」


 口の多い男が操縦するFAは他のものとは違い、一回り体格が大きい。

 それに、機体カラーが違い、真っ赤に塗装されていた。


 量産型FA【タイラネン】のユニーク機体であり、

 その真っ赤なFAに続いて帰るFAもまた、違った珍しいカラーをしていた。


 ため息を付いて、

 その全く警戒心のない背中を追って俺も戻ることになる。



 第一師団。それは、名門貴族たちの子息たちが泊をつけるために創設された軍師団。師団と言いつつも人数は三桁半ばほどで、ほとんどが尉官以上の階級を持っている。


 階級があるだけで、直属の部下はおらず、戦闘能力も他の師団に数段劣る。

 さらに、霊峰の麓というだけあり、軍事的にはほとんど意味がない。

 

 今や、第一師団というのは貴族たちの娯楽場である。


 そんな中、俺は大貴族ユグドリア家の奴隷として生を受け

 次期当主になる、ファウスト・ユグドリアの付き人として

 第一師団の軍人となった。


 自分で言うにはこっ恥ずかしいことだが、

 事実、俺にはかなりのFA操縦技術があり、

 他の師団にも入軍の許可があった。

 

 しかし、俺の権利は全てユグドリア家が持っていることから

 その他を全て拒否されて、俺は第一師団に入ることになる。


「はぁ。いつもこんなんだ。

 ちゃんと警戒してないと。

 実際、ここを取られると帝国は怪我じゃすまないし、

 霊峰なんていつ超えられるか、わからないんだぞ」


「聞こえてるぞー。

 そんなに気張んなって。気楽に行こうぜ気楽にな」


 ファウストが半笑いで馬鹿にするが


「はぁ」


 と、ため息を聞かせてから、通信をオフにする。


 ガサッ


 木々が揺れる。


 時折、強い強風が吹くが

 しかし、基本的にはずっと無風である。


 獣の類かと思考するが、霊峰の麓は霊峰に住む生物にとってマナが少ないらしく、霊峰の上にいるか

 一般的な生物にとってはマナが濃すぎて近寄らないという、

 人間にとっては便利な場所であったため、考えられない。


 すると、FAかと


 俺はコックピットのキーボードを叩いて

 マップ画面を開きエコー探索を開始。


 こちらに背を向けてゆっくりと帰るファウスト一行。


 それとは別の機体が


『俺の背後に居た』


「なんだと!?」


 俺は瞬時にFAを反転。


 ガッと、空を裂いた敵の一閃に


 腰に据え付けられたタイラネンの標準武装である「FF-5050」の一斉砲撃を行う。

 緊急時の武器仕様はパイロットに一存してある。


 ズガガガーー


 という、装甲を削る音に後方に下がりながら受け流される。


 (かなりひょろい機体だな。

 ほとんど武装のたぐいがない。)


 タイラネンは、標準型の量産機であり、肢体のどこかが欠損してもすぐ交換できるように、至るところがゴツく太い。

 それに比べて、対面している機体は

 骨だけかというようなくらいに、細い。


 ヒュン、ヒュンと風を切るように距離を取る動きを見るに

 体はかなり軽いように思える。


 そうして、観察が終わり、俺の仮説が組み上がる。


 つまり、その軽い機体で霊峰を超えてきたのだと。


「ファウスト様!! 敵です!」


 反応はない。

 俺は、周りをスキャンしながら目視している一騎に注意を向けながら助けを求めるが

 誰も反応しない。


「ファウスト様!!

 誰か!!?」


 そういえば。

 さっき回線をオフラインにしたのは自分だったと嘲笑して


 今度はちゃんとオンラインになったことを確認してから


「ファウスト様! 敵です!

 戦闘態勢でこちらへ来てください!!」


『はぁ? 敵? んなわけないだろ』


 と、面倒くさそうに俺の方へ反転する音。


 敵騎士の画像を送信して、師団全体にも注意を呼びかける。


 スクランブルのサイレンが瞬間で鳴り響き、

 霊峰の麓の広範囲に取り付けられた魔晶石のライトが発光。


 一瞬で辺りは真昼よりも明るくなり、

 敵騎士の周囲に隠れていたはずの他の騎士も目視できた。


 一瞬、そちらへ注意がそれた間

 最初の機体が、持っていた長物を投擲。


 バビュウと、俺の居る操縦席を狙った攻撃。

 反応が遅れて、回避したためか右腕の装甲の半分を持っていかれた。


 ゲージが減って、「交換してください」との表示が出てくる。


 回避して敵から目を離した間に、すでに姿はなくなっており


「おいおいおい。

 まじかよ」


 と、声が聞こえる。


「ふぁ、ファウスト様」


「一人死んだぞ。

 やべえな。本当に敵かよ」


「し、んだ?」


 俺が聞き返して、ファウスト隊の数を数える。

 本当に一人足りない。


「さっき、飛んできた剣か、槍か知らんが

 突きぬかれてバーン。

 いやぁ、人間って本当に死ぬんだなぁ」


 俺が、避けたそれだろうか。

 それとも、別の敵がファウスト隊を襲ったのか。

 いや、おそらく前者で。


「そりゃ、死にますよ。

 一旦、他の部隊と合流しましょう。

 かなりの実力者でした」


「はぁ? 

 お前に、わかるわけ無いだろって」


 ゴン、と赤いタイラネンが俺のタイラネンの足の装甲を削り、右足のゲージがミリ単位で減少した。




 

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