733.これからの予定などを聞いてみる

 三日後に来てもらう前に、相川さんに改めていろいろ確認させてもらった。

 今回は山の上への挨拶とニワトリたちとの顔合わせと相談らしい。川中さんと畑野さんは狩りに行ければいいということで今回は来ないそうだ。平日だしな。


「川中さんは獲物が獲れないとうるさくなったりもしますが……こればっかりは時の運ですしね」


 電話の向こうで相川さんが苦笑していた。そういえば年始にそんなことを言っていたような気がする。


「狩れないから……って言われても困りますよね」

「ええ。ただ僕たちも贅沢に慣れてしまっていますから……お互いさまなんですけどね」


 今度は苦笑ではなかった。

 贅沢ってなんだろうと思った。


「贅沢、ですか?」

「ええ、前にも佐野さんにはお伝えしましたが……佐野さんは本当に気にしていないんですね」

「えっ?」


 俺が気にすることってなんだろう。

 相川さんはそこで話題を変えた。


「そういえば、ずっと仮想通貨が上がっているんですよ」

「えー……どこまで上がるんですかね……」


 仮想通貨の話は心臓に悪い。捨てたつもりで十万円を預けたけど、今度はいったいいくらまで増えたのだろうか。


「以前も言いましたが上がっていくものなんです」

「じゃあなんでみなさんやらないんでしょうか」

「数字だけ上がっていくものですから、得体が知れないんじゃないですかね。投資とやっていることは変わらないんですが」


 そうだよな、投資だよな。

 電話を切ってからも少し考えた。


「投資かぁ……」


 お金が確実に増えるならいいけど、そうでなければやっぱりあまりやりたいものではないというのが俺の本音だ。

 今回はどうしても風呂の増築の資金がほしかったから相川さんに頼んだけど、そうでなかったら一生手を出さなかったかもしれない。

 だいたい投資なんて余剰資金でやるものだろうし。

 基本ニワトリたちに生活費のほとんどをかけている俺としては、余剰金などあるわけもないのだ。もちろん、だからなんだってのはないけど。


「水道代がかからないだけでもありがたいよな」


 ガスはプロパンだからけっこう高いけどな。だから相川さんのところは薪風呂なのか。

 そんなことを考えながら寝た。



 三日後である。

 いちいち明日じゃないからな! とニワトリたちに言っていた。そのうちポチとタマにはジト目を向けられるようになった。

 だからなんでお前らはそんなに短気なんだよ。

 おかげさまで今朝はタマとメイがのしっと俺の足の上に乗りました。

 さすがに足に乗られれば起きるんだが、タマは瞬発力がいいせいか俺に捕まったりはしない。


「だからっ、乗って起こすなっつってんだろーがー!」


 腹筋を使ってバッと起き上がる。タマはすでに俺の上からどいていたが、メイはどんくさいのか一瞬動きが止まる。それをガバッと捕まえた。


 ギョギョエエ~~~~ッッ!!


「メーイ、乗るのはやめなさーい!」


 メイってすごい声が出るなーと思いながら捕まえて羽をなでなでした。毎日洗っているせいか嫌な匂いは一切しない。スン、と匂いを嗅いだ。羽も艶やかである。


「いいかげん学べよなー」


 放してやれば、メイは慌てて俺の上からどき、畳の上で一回コケた。やっぱりメイはどんくさいなぁ。メイが逃げていってからやれやれと立ち上がる。

 と、視線を感じて部屋の襖の方を見た。


「ユマ?」


 珍しく、ユマの顔が覗いていた。ユマがコキャッと首を傾げる。


「サノー、セクハラー!」

「えええええ」


 ユマはそうしてぷいっとそっぽを向くと、トトトッと戻って行ってしまった。


「そんなああああ……」


 ユマにまでセクハラって言われた。もう立ち直れない。

 くずおれてうだうだしていたら、今度はポチの顔が覗いた。


「ゴハンー」

「アッ、ハイ……」


 そうですね。ごはんですよね。

 なんだか釈然としないものを感じながら、俺は布団を畳み、着替えなどをしてから居間へ向かった。さすがに今日は人が来るからスエット姿ってわけにはいかない。


「でもなー、こんなに早く陸奥さんたちはこないと思うぞー」


 そう言いながらニワトリたちのごはんを用意する。

 つーかさ、言葉で餌を催促するニワトリってなんだろうな? って今更なんだけどつい考えちゃうんだよなー。

 なんつーか、うちのニワトリたちとの暮らしは正気に返ったらだめな気がする。

 今朝もタマユマが卵を産んでくれたようだ。


「タマ、ユマ、いつもありがとうなー」


 メイが卵を見てコキャッと首を傾げた。なんなのかわからないんだろう。そこらへんはタマユマに教えを乞うてほしい。

 ニワトリたちにごはんをあげ、俺も朝飯を食い終わってから表へ出た。ニワトリたちはすでに表でうろうろしている。思い思いに草をつついたりしているが、駐車場の向こうを気にしているのがわかった。

 陸奥さんたちまだ来ないかなって思っているのだろう。

 それだけ聞くとかわいいんだけど、内容が内容だしなぁ。参道整備はともかく狩りの話をニワトリとって意味がわからない。


「ん?」


 まだ少し早い時間なのだが車の音が聞こえてきた。


「おっちゃん? 気が早すぎないか?」


 どんだけ元気なんだよと呆れたのだった。



次の更新は7/2(火)です。よろしくー


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特典の紹介などもありますのでチェックしていただけると嬉しいです!

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