732.でっかい工作大好きーズは止まらない

 まず浴槽の大きさを決め、それから浴室の広さを考える。

 浴槽は注文してくれるそうだ。それが届いてから作業を始めるという話になった。

 なのですぐのすぐではない。


「風呂場の改装って、どれぐらいかかりますかね?」

「そうだなぁ。壁を壊してみねえとなんともいえねえな。壁自体にはなんも入ってねえはずだから壊すだけでいいはずだが……」


 陸奥さんが考えるような顔をする。


「さすがに四阿を作る時みたいにはいかねえしなー」


 おっちゃんがガハハと笑った。


「風呂場も大事だが、参道の整備もちゃちゃっとやっちまうか」

「そうだね~。その方が参拝も楽になるしね」


 陸奥さんと戸山さんが張り切っている。


「えええええ……いや、参道は俺が……」

「一人だといつまで経っても終わんねえだろ? まぁ雪が降ったらまた来年だが、今年もニワトリたちと山巡りさせてもらいてえしよ」

「あ、いえ……参道はまた別件なんで……山巡りは好きにしていただいても……」

「神様に挨拶は大事だろ?」


 それはそうなんだけど。

 なんでみんなこんなに目がキラキラしているのか教えてほしい。だからどんだけでっかい工作が好きなんだよー。

 そのまま相川さんも交えてああでもないこうでもないと話し出してしまった。

 ユマが畑の側にいるのでそちらへ向かう。

 畑の側の草をつついていたユマが顔を上げた。


「ユマ~」


 ココッと返事をしてくれるのが優しい。

 そのまま畑のチェックをする。今年も冬は青菜を植えている。来年は休ませるべきかな。

 雪が止んだら畑の隣を耕そう。何を植えるにしても作業は早い方がいい。俺には農業はさっぱりわからないから、そこらへんはおっちゃんたちに聞きながらになってしまうけど。

 そうしているうちに話が終わったらしい。


「佐野君、明後日以降来てもいいか?」


 陸奥さんに声をかけられてちょっと詰まった。


「狩りの相談もしておきたいからよ」


 陸奥さんはそう言って笑った。


「あ、そうですよね! いらっしゃる日を決めていただけるとポチとタマも話が聞けるのでいいかなと思うんですが……」


 自分で言っててなんかおかしいと思ったんだが、「そうだな!」と言われてしまったのでそのまま日程を決めることにした。

 今年も川中さんと畑野さんが参加してくれるというので、二人のスケジュールも聞いてくれるという。

 一応仮で三日後に来るという話になった。

 お茶を飲んでからみな帰っていった。基本連絡は相川さんにしてもらうことになった。確かに一か所にまとめてくれた方が助かる。

 相川さんは切って短くなった丸太を軽トラの荷台に積んで、機嫌よさそうに帰っていった。

 夕方、日が落ち始めた頃にニワトリたちが帰ってきた。適当に汚れて。

 何も狩ってこなかったことにほっとした。

 でも、もし狩りに行ったなら早い段階で帰ってきただろうと思うからいつも通りなんだよな。

 ポチタマメイを四阿でざっと洗う。まだ虫がいるらしい。羽に小さい虫が付いていたりするのでそこらへんはしっかりチェックするようにしている。

 蚊はもう見なくなった。山はどうしても寒いしな。

 家に入れて晩ごはんを用意する。みなが食べ終えてくつろいでいる時に、三日後の話をした。


「また近いうちに陸奥さんたちが来るんだけど、その時に狩りの話をしようってさ」


 ニワトリたちの目がキラーンと光ったように見えた。


「シカー!」

「イノシシー!」

「エモノー!」


 ココッとメイ。一斉にニワトリたちが声を上げた。


「いやいやいやいや……すぐに狩りをするわけじゃないから。今回は相談だから!」

「ソウー」

「ダンー?」

「ウラー?」


 コココッとメイ。メイは足をタシタシさせている。いやだから狩りはしないってば。しばらくは。

 ユマの「ウラー?」は裏山のことか? 気が早いったらない。


「えーい、首傾げるんじゃねー! わかってんだろーが!」


 コキャコキャ首傾げやがって。かわいいな。

 俺は別にニワトリと漫才をやってるんじゃないんだぞ。

 はーっとため息をついて、


「明日じゃないからな! 何日か経ってからだから! 明日の朝起こすなよ」


 と釘を刺しておいた。

 言っとかないと、隙あらば乗られてしまうからな。朝俺を起こす為じゃなくて普通に膝とかに乗ってくれればいいのになと思ってしまう。

 ユマメイと風呂に入った。

 昔の風呂桶のせいか少し狭いんだよな。俺一人で入って足がしっかり伸ばせないぐらいだから、ユマと一緒に入ることができなくなってしまったのだ。俺の足が伸ばせるぐらい広ければ、ユマと一緒に入れたのに。

 って家まで売ってもらったのに贅沢を言ったら罰が当たるよな。そうでなくたっていろいろ気にかけてもらってるんだからさ。


「サノー、オフロー」


 ユマが湯舟に浸かって俺を呼ぶ。メイも一緒だ。メイはぱしゃぱしゃと泳ぐように羽を動かしている。見ているだけで癒される光景だ。

 ココッ、ココッとメイも俺を見ながら鳴いた。一緒に入ろうと言われているみたいで和む。タマの真似をしたりもするメイだが、たまにくっついてきてくれたりする。


「一緒には入れないって知ってるだろ」


 ユマもメイもかわいいよな。二羽を撫でて、風呂が広くなればいいなとしみじみ思ったのだった。



次の更新は28日(金)です。よろしくー

誤字脱字等の修正は次の更新でしますー

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