731.なんでそんなに元気なのか教えてほしい

 みながうちに上がる前にユマがつんつんとつついてくれた。

 虫とか小さいゴミなどを取ってくれるユマチェックである。うちのニワトリたちはみなしてくれる。


「おうおう、ユマちゃんありがとうなぁ」


 陸奥さんの顔が崩れていた。うんうん、うちのユマはかわいいよな。


「けっこう服にいろいろ付いてたりするよねー」


 バサバサと服を払ったり叩いたりしてから、手をよく洗ってもらいお茶を淹れた。お茶請けに煎餅と漬物を出す。

 一応ごはんは炊いてあるけど今日の昼飯はどうするかな。さすがに今日もおっちゃんちってわけにはいかないだろう。


「疲れたねー……」

「さすがになぁ」


 戸山さんとおっちゃんが呟いた。


「ごはん用意しますね。時間少しかかりますけど」

「いいのか?」


 陸奥さんが目を丸くした。


「簡単なものにはなります」

「飯があればあとは漬物だけで十分だぞ」

「ちょっと考えますねー」


 ここで飯があれば漬物だけでって言ってくれるの優しいよな。陸奥さんて本当にカッコイイと思う。(漬物はすでに出してあるものでいいってことだろう)

 野菜はなんだかんだいってもらっているから、お湯を沸かしている間に青菜をざくざく切って一部ユマに出した。ユマには他に養鶏場でもらってきている餌を出す。これでユマのお昼は足りるはずだ。

 今朝は手抜きで汁物をとろろ汁にしてしまったから、みそ汁がない。青菜とネギのみそ汁にする。


「佐野さん、僕も何か作りますよ。冷蔵庫の中、見てもいいですか?」

「あ、はい。使っちゃいけないものはないのでそうしていただけると嬉しいです」


 相川さんに声をかけられて甘えることにした。相川さんの手料理、うまいもんな。


「豚肉使っていいですか?」

「はい、どうぞ」


 相川さんに頼んだら、豚肉とシイタケ、青菜の旨煮が出てきた。こういうのサッと作ってくれるんだからいいよな。まぁうちもそれなりに調味料はそろえてるけど。


「ごはんですよー」

「おー、うまそうだなー」

「おかずは一品だけですけどね~」


 さすがに作る気力がなかった。


「佐野君も相川君も疲れてるだろうに、ありがとうな」


 陸奥さんのこのさりげない優しさが沁みる。若い頃はさぞかしモテただろうなと思った。


「やっぱり佐野君のおみそ汁はいいねぇ……」


 戸山さんがしみじみ言う。


「みそ汁なんて普通じゃないですか」

「いやあ、最近うちのかみさんが脂肪を燃焼するとかいう野菜スープにはまっちゃってねぇ。洋風の味のスープばっかりなんだよ」

「そうなんですか」


 そういえば脂肪燃焼スープって聞いたことがあるなぁ。でもあれって、野菜を使ってればなんでもいいんじゃないのかって考えてしまう。


「具は変えてくれるんだけど、毎回あの味ってのがねぇ。みそ汁だったら飽きないのになんでだろうね」


 戸山さんは苦笑した。


「もちろん作ってくれるのはありがたいんだけどさ」

「たまにはみそ汁が食いてえって言ってもいいんじゃねえか?」

「そうするとインスタントが出てくるんだよ。インスタントでもおいしいんだけど、うまくいかないもんだよなぁ」


 戸山さんは頭を掻いた。


「今って顆粒のみそも売ってますから、一人分だけ自分でみそ汁を作ってもいいかもしれませんよ」


 相川さんが提案する。


「ありがとう。いろいろ考えてみるよ」


 戸山さんはそう言ってみそ汁をおかわりして食べた。この村では女性以外が台所に立つというのはあまり好まれないみたいだから、その関係もあるのかもしれない。

 旦那さんもごはん作れればいいと思うんだけどな。

 ユマはごはんを食べ終えると、表へ出た。


「相川君とこのシイタケだろ? これ」


 陸奥さんが聞くと、相川さんは頷いた。


「肉厚でうめえよなぁ。あ、うちはもうそんなにいらねえからな」


 相川さんはチッと舌打ちした。珍しいこともあるものだと目を丸くしてしまった。


「相川君のシイタケ攻撃はすごいからね~。おいしいはおいしいんだけど量がね」


 戸山さんが補足してくれた。つまり、遠慮すると言われるほど配ったってことなんだろう。確かにおいしいんだけど、やはり物には限度がある。


「まぁ……養鶏場でもらってくださいますからいいですけど」

「養鶏場ってのが盲点だったなぁ」


 陸奥さんが呟いた。


「乾燥させて砕いて餌に混ぜているみたいです。それでおいしいお肉が食べられるんですから、いいですよね」

「ちげえねえ」


 そんなことを話して、食休みをしてから風呂場の確認をしてもらった。ユマも一緒に。


「こりゃあ壁を壊さねえとだな。ユマちゃんと佐野君が入れる風呂桶だと作ってもらった方がいいだろうな」


 風呂桶って聞いて、つい洗面器が頭に浮かんだけど昔の浴槽って木でできてたわけで。陸奥さんからしたら風呂桶って浴槽なんだろうなと思った。


「そうだねー」


 戸山さんが同意する。


「予算は百万という話ですから、風呂桶は発注した方がいいでしょう。浴室自体はこちらで作ってしまえばいいですし」

「そうだな」


 相川さんとおっちゃんたちがとても楽しそうだ。ユマはコキャッと首を傾げた。なんで風呂場に連れてこられたのかわからないようである。


「ユマ、もう大丈夫だよ。行こうか」


 ユマがココッと返事をし、とてとてと廊下を歩いていった。

 本格的に風呂場の改築が始まりそうである。

 何日ぐらいかかるかななんて、考えたのだった。



次の更新は25日(火)です。よろしくー


「山暮らし~」6巻のタイトル入り書影が公開されましたー! 是非見てやってくださいませー

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