729.いろいろたいへんだったけど
相川さんはかなり急いで来てくれた。
でもなんで「神様がやった」って知ってるんだろう?
「陸奥さんには重機を頼んだぞ」
おっちゃんが相川さんに伝えたが、相川さんは首を振った。
「いえ、危ないのでまず倒れている木を他の木に括り付けましょう。それから切った方が安全です」
相川さん曰く、坂になっているので下手に切ったりすると危ないという。例えば他にも木がある場所なら他の木がストッパーになるが、参道整備をしているので草も木もないところを転がっていってしまうことになる。下手したら持ってきた重機に当たって、重機が壊れてしまうかもしれないと言っていた。
「あー、確かにな」
おっちゃんは頭を掻いた。
「どうも平地のつもりでいけねえな。相川君の言う通りだ」
「縄を持ってきましたので、近くの木に括り付けましょう。それだけでもやっておけば安全です。切るのは今日でなくてもいいですから」
「わかりました。ありがとうございます」
おっちゃんと相川さんに手伝ってもらい、まず倒れている木を他の木に括り付けた。縄がどんどんなくなる。でもこうやって括っておけば、繋がっている木の皮がちぎれたとしても転がっていったりしないから安心だ。そうして三本とも応急処置をした頃には昼になっていた。
とても疲れた。
ニワトリたちがこちらをじっと見ている。
そうだな、ごはんだよな。
「お昼にしませんか」
そう声をかけると、相川さんとおっちゃんは大きく頷いた。さすがに働きすぎだ。
ユマは軽トラの助手席に乗ってくれたが、ポチタマメイは自力でツッタカターと家までの道を駆けていってしまった。
「おー、元気だなぁ」
「ですね……」
おっちゃんが感心したように声を上げる。俺も元気だなと思った。
ユマが当たり前のように俺の横に乗ってくれるのが嬉しい。ついにまにましてしまう。
そして家の側の駐車場に軽トラを停めれば、遅いわよとばかりにタマに睨まれた。
「ごめんごめん。すぐ用意するからなー」
って、昼飯用意する必要あったっけ? まぁいいか。
先にニワトリたちのごはんを用意してから身体をぐぐーっと伸ばした。お昼ご飯用意しないとな。おっちゃんと、相川さんの分も。何作ろうかな。
「おい、昇平」
「はい?」
おっちゃんに声をかけられて振り向いた。
「うちのが昼飯用意してるらしいから、うちへ行くぞ」
「えっ、でも……」
「あれだけ作業やったんだから疲れてんだろ。相川君もそれでいいだろ?」
「ええ、ありがたいです」
「えっと……」
ニワトリたちはボウルの中の餌をつついている。
「ニワトリたちのメシが終わってからでいい。行くぞ」
ってことで、おばさんのごはんをごちそうになることになった。ごはんを作るのがしんどいなとは思っていたから助かった。きっとおっちゃんがおばさんに言ってくれたんだろうな。ありがたいことである。ニワトリたちは餌を食べ終えると、ユマを残してツッタカターと遊びにいってしまった。
「付き合ってくれてありがとなー」
ポチがそれにクァアー! と返事をしてくれた。気にするなと言っているみたいだった。
うちのニワトリたちはなんだかんだいって優しい。
つーか、俺の周りの人たちは優しい人ばかりだ。
おっちゃんちへ向かい、お昼ご飯をいただいた。ユマはおっちゃんちの庭で草をつついていた。
「木が倒れてたなんて、たいへんだったわねえ」
「ええ、びっくりしました」
ごはんは新米だった。甘味があってとてもうまい。いくらでも食えるって思う。
新米には漬物だけだっていい。
でもおばさんがきんぴらだの、ブリ大根だの、こんにゃく炒めだの、里芋の煮っころがしだの出してくれるから嬉しくてたまらない。煮物サイコー、煮物は正義だ。
「疲れたでしょう。いっぱい食べてね~」
おばさんも嬉しそうに言ってくれるから、つい食べてしまう。
「あら、でもお肉がなかったわね。ごめんね」
「とってもおいしいです!」
肉は自分で焼いて食べればいいのだ。相川さんも味わうように食べていた。
「煮物が本当においしいですよね」
「いくらでも食べられます……」
今日はもう疲れたので、作業の続きは明日やることにした。明日は陸奥さんたちも来てくれるらしい。とりあえず倒れた木は薪にしてしまおうという話になった。使えるようになるまでには一年ぐらいかかるけど、せっかくだから活用したい。
おっちゃんちから帰る時に、ふと思い出して相川さんに聞いてみた。
「相川さんは、なんで”神様がやった”と思ったんですか?」
相川さんは難しそうな顔をして、首を傾げた。
「……どうしてでしょう……でも、山の神様がやったのではないかと思ったんですよ。参道の整備をしているわけですし」
根拠は特になかったのか。それとも忘れてしまったのか。忘れたのだとしたら、覚えていない方がいいのだろう。
どうも不思議が多いなと思う。
でも山唐さんが言うには、もうこんなことはないということだからそれを信じることにしよう。あんなこと何度もされてしまってはたまらない。
近づいてきてくれたユマをだっこして助手席に乗せた。なんかだっこしたい気分だったのだ。
ユマも逆らわずだっこされてくれるのが嬉しい。
「ユマ、ありがとな」
軽トラを走らせながら、ユマに礼を言った。まだ村の中だったからか、ユマはココッと返事をしてくれたのだった。
次の更新は18日(火)です。よろしくー
「山暮らし~」6巻は予約してくれたかな? 7/10(水)発売です。
「準備万端~」も合わせてよろしくです。
両方とも書下ろしを書いたよ! とっても楽しいですよー!
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