727.ちっちゃいもおっきいもかわいい

「佐野さんが来てくださってよかったです……」


 桂木さんの家のあるところまで戻ると、桂木さんはため息をついた。開けたところに戻ったので、預かっていたヒナをタマユマの間に下ろす。


「よろしくなー」

「ハーイ」

「ハーイ」


 ココッとメイが鳴く。メイが少し得意げにクンッと頭を上げているのがかわいかった。

 うんうん、うちでは一番ちっちゃいけど(もうちっちゃいって大きさではない)、ここに来たらお姉ちゃんだもんな。

 ヒナはメイの尾が気になるのか、つんつんとつついている。あの尾、ちょっと感覚が鈍いのか変わらず軽く揺れていた。それをタマユマが見ている。おかーさん二人だななんて思ってしまった。

 桂木さんは家に入ってすぐに蚊取り線香を縁側に出した。

 確かにそんな季節である。この時期は蚊だけでなく他の虫も多いからちょっと困る。山の中はどうしたって虫が多い。


「今お茶をお出ししますね」

「おかまいなく」


 桂木さんが家の中でごはんを作ってくれている間、ヒナの動きに反応するニワトリたちを眺めていた。ドラゴンさんは畑の横の木の下で悠然と寝そべっている。昼寝をしているのかもしれない。

 桂木さんがお茶と一緒に野菜の入ったボウルを持ってきた。


「これはタマちゃんやユマちゃんたちにどうぞ」

「ありがとう。ミドリちゃんも食べられるのかな」

「普通につついてますからいいですよー」


 ボウルをニワトリたちがいるところに持っていけば、みなつつき始めた。野菜、好きだよな。

 俺はニワトリとヒナの様子を見ながらお茶を啜った。


「お待たせしました」


 桂木さんが出してくれたのは、栗ごはんと里芋とニンジン、シイタケと鶏肉の煮物だった。もちろんみそ汁もあるし、漬物やサラダも出てきた。


「お! おいしそう」


 桂木さんはその他に野菜の入った小さめのボウルを持ってきていた。


「じゃあいただきましょう」

「いただきます」


 手を合わせて食べ始めたら、ユマがやってきた。ヒナの方を見れば、タマメイと共に野菜を食べているようである。いつのまにかヒナはボウルの中に入ってしまったみたいだった。どうやって入ったんだろう。

 ユマは俺と桂木さんの間に立ち、桂木さんが出した小さなボウルに顔をつっこんだ。桂木さんはユマが来ることを見越して野菜を用意してくれたらしい。

 こうやって側に来てくれるのが嬉しい。桂木さんもにこにこしている。


「やっぱ煮物はうまいなー」

「相川さんからもらったシイタケを使いましたけど……いっぱいあるんですよねー」

「うんまぁ……相川さんのところは原木が大量に植わってるからね」

「前にも聞きましたけど、いったいどれだけ植えたんですか?」

「いっぱい……?」


 としか言いようがなかった。相川さんには無になる時間が必要だったのだ。それでなんでシイタケの原木に菌を植え付け始めたのかはわからないけど。なにかしなければいられなかったんだろうな。だからってなんでシイタケの原木……(無限ループ)


「でも、原木栽培のせいかシイタケ独特の匂いはしませんよね。とてもおいしいです」

「うん、おいしいよな。ただ……」

「なんですか?」

「それ、相川さんに言うともっと持ってこられるかもしれないから……」

「確かにその可能性はありますね」


 桂木さんは苦笑した。おいしいはおいしいのだ。ただ、一度に持ってこられる量がとても多い。


「佐野さん、いっぱい作っちゃったので持ち帰ってもらってもいいですか?」


 煮物だけでなく栗ごはんもいただいてしまった。


「こんなにいいの?」

「つい作りすぎちゃうんですよねー。リエがいた時はリエが文句言いながらも食べてくれたんですけど……」

「そっか」


 キュイキュイとヒナが鳴きながら近づいてきた。


「ミドリ、お野菜食べる?」


 桂木さんはレタスを少しちぎってヒナにあげた。ヒナはヒナ用の餌も食べるが、野菜もそれなりに食べるみたいだ。逞しいなと思った。


「ヒナって、たいへんですけどかわいいですね」

「うん、そうだね」


 少しゆっくりしてから山へ戻った。

 戻ったら、タマはツッタカターと出かけて行った。メイはユマと留守番らしい。その方が俺は安心だけどな。


「メイもでっかくなったなー」


 ヒナと比べたら巨大と言ってもいい。うちでは一番ちっちゃいメイだけど、掛川さんちのブッチャーと同じくらい? もしくはもっと大きく育っているかもしれないと思った。比べてみないとメイのことを客観視できないんだよな。どうしてもちっちゃいってイメージが抜けなくてさ。

 だから過保護って言われるんだろうな。

 そして俺の影響を受けているのか、はたまた偶然なのか、うちの山の神様もなかなかに過保護だと思う。


「明日……じゃなくて明後日か」


 登るというより様子を見に行くだけだ。まず見ないことにはなんの対策も立てられない。

 もらってきた栗ごはんと煮物を片付けて、家の周りの草むしりをする。

 そろそろ十一月だ。気温が一気に下がる日も出てくるだろう。そうしたらまた雑草が一気に枯れるのかな。それでもう少し抜きやすくなるといいのだが。

 山暮らしってホント虫や雑草との戦いだなぁと、ユマにつんつんとつつかれながら苦笑したのだった。(ユマは虫を取ってくれていたみたいだ



次の更新は11日(火)です。

昨日上げた「山暮らし~」6巻の宣伝は見ていただけたでしょうか? とっても楽しく仕上がっていますのでどうぞよろしくお願いします!

7/10(水)発売です!!

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