726.ナル山の神様にご挨拶に行きました

「ミドリー、ダメだよー」


 桂木さんはそう言って軽トラのドアを閉めた。そうして桂木さんの家のあるところまで向かった。

 軽トラを降り、ニワトリたちを降ろす。桂木さんも降り、ヒクイドリのヒナも降りた。そのままヒナが走っていこうとするのをユマが止める。

 キュー、キュイーと鳴きながらヒナがユマの羽毛に埋もれた。


「か、かわいいっ……!」


 桂木さんの目がときめいている。

 ヒナが大きいわけじゃなくて、ユマが地面に座ったからヒナが羽毛に突っ込んで動けないわけで。


「すぐにどこかへ走っていこうとするんですよー」

「タツキさんにそういう頃はなかったの?」

「タツキはー……止まってるか消えてるかでしたねー」

「そうなのか」


 最初のうちは姿が見えなくなると桂木さんも心配したらしいが、「タツキー、タツキー!」と必死で呼ぶと出てくるので、大丈夫だと思ったようだ。そしてドラゴンさんもうちのニワトリのように成長は早かったらしい。


「一か月もしないうちにどんどん大きくなりまして、すぐに1mぐらいになっちゃったんですよねー」

「へえ……」


 ドラゴンさんがコモドドラゴンなのかどうかはわからないけど、一か月もしないうちに全長1mとか成長するものなんだろうか。そこらへんは調べていないからわからない。


「タツキさんが自分で餌を獲れない時は何をあげてたんだ?」

「主にタンパク質が必要って言われたので、豚肉とか鶏のササミとかを湯がいてあげてましたねー。すぐに自分でごはんを獲ってくるようになったので、どうしても私が用意しなきゃいけないって時はなかったです」

「そうなのか」


 ドラゴンさんはドラゴンさんなりに桂木さんに負担をかけないようにしていたようだ。


「タツキさんはすごいんだな」


 ドラゴンさんの姿を探す。ドラゴンさんは、畑の横の木の下で横たわっていた。


「タツキさんに挨拶させてもらっていい?」

「はい、お願いします」


 桂木さんはユマの羽毛に埋もれているヒナを捕まえてだっこしていた。「ユマちゃんありがとねー」と言って。


「イイヨー」


 とユマも返事をしている。


「タツキさん、この間ぶりです。うちのニワトリたちが草や虫を獲ったりしてもいいですか?」


 ドラゴンさんはじっと俺を見ると、悠然と頷いてくれた。相変わらずどっしりとして貫禄があり、カッコイイ。


「ありがとうございます」


 礼を言って、ニワトリたちを手招きした。桂木さんもニワトリたちとこちらへ来る。ヒナがキュー、キュイーとしきりに鳴いている。きっと降りたいのだろう。

 でもなぁ、下ろして行方不明になったら困るしな。


「ミドリ、お外はあんまり駆けてっちゃダメなのよー」


 桂木さんがそう言いながらヒナをなでなでしている。ヒナはつんつんと桂木さんをつついて抗議していた。まだまだかわいい盛りである。


「ミヤコー」

「ミドリー」


 ココッとメイが鳴いた。

 タマが桂木さんを呼び、ユマがヒナを呼ぶ。


「え? 面倒看てくれるの? 大丈夫?」

「ダイジョブー」

「ありがとう。お願いねー」


 桂木さんはにこにこしながらタマとユマの間にヒナを下ろした。途端にヒナが駆けていこうとする。それをタマが遮った。

 ココッ、コココッとタマが鳴き、キュイーとヒナが応答した。

 それでヒナは少し大人しくなった。タマはいったいヒナになんて言ったんだろうな?


「すごーい、タマちゃん。ありがとう~」

「神様のところへ行くんだろ? 大丈夫?」

「はい、お願いします」


 桂木さんがキリリとした顔をしてみせた。

 タマがいそいそとドラゴンさんをつつき始めたので、それが終わってから神様詣でに向かうことにした。

 ヒナはユマメイと共にポテポテと歩いている。そして同じように草をつついたりしていた。


「ちっちゃいって無条件にかわいいよな」

「ですよねー。メイちゃんのひよこだった頃もすっごくかわいかったですよねー。あ、今もかわいいですよ」

「うん。でっかくなってもかわいい……」


 そう、うちの子たちは俺の肩ぐらいまでとさかが届いてもかわいいんである。それだけは譲れなかった。

 やがてタマも満足したらしい。

 改めて神様がいる祠へ向かうことにした。

 ヒナはおとなしくタマユマメイの間を歩いている。でもヒナの歩みに合わせていたらいつまで経っても付かないので、


「ミドリちゃん、俺に運ばせてくれないか」


 と声をかけて掬い上げた。

 途端に、キューイ、キュイーと抗議の声が上がる。


「急ごう」


 ニワトリたちを促して、藪を払い、山の東側にある祠へ。途中草が倒れているようなところはあったが、木が倒れたりはしていなかったので祠まで無事辿り着くことができた。まずは祠の周りを掃除する。さすがにその時はヒナを下ろしてタマユマに見ててもらった。

 桂木さんは持参した水とお酒、おまんじゅうを祠に捧げた。


「いつも見守ってくださり、ありがとうございます。山に住む子が増えたので紹介させてください」


 桂木さんは手を合わせてそう言うと、ヒナを手招きした。ヒナはコキャッと首を傾げたが、素直に桂木さんのところへぽてぽて歩いていった。

 桂木さんがそっとヒナを掬い上げる。


「ヒクイドリのヒナのミドリです。どうぞよろしくお願いします」


 そう挨拶した桂木さんは、とても嬉しそうだった。俺たちも神様に挨拶をしてから撤収したのだった。



次の更新は7日(金)です。よろしくー

今週中に「山暮らし~」6巻の宣伝SS上げますねー

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