725.山の上には登れないので

 三日後か。

 山の様子を見てから重機うんぬんは考えた方がいいかな。

 山唐さんが帰ってから、入れ替わりのように桂木さんからLINEが入った。

 そういえばヒクイドリのヒナは元気なんだろうか。


「おお、ちょっと成長してる?」


 ヒナの写真が添付されていた。ドラゴンさんの背の上にいて、なかなかかわいい。写真の撮り方かもしれないけど、ヒナの首が少し伸びているように見えた。

 当然ながら本題はそれではなかった。


「うちの神様にそろそろ挨拶に行きたいので、佐野さんご都合はいかがですか?」


 というお誘いだった。ちなみに桂木妹が山を去る前に挨拶には行っているらしい。今回はヒクイドリのヒナを迎えたからまた是非ご挨拶に、ということみたいだ。


「いいけど、もしも山道の状況とかで行けなさそうだったら諦めるよ」

「それはわかってます」


 台風も来たし、おそらくヒナもじっとはしていないだろう。藪に入られてしまったらとても探せないので、桂木さんとドラゴンさんだけでは不安だと思う。


「明日でもいいけど」

「じゃあ明日お願いします!」


 しっかり食いつかれた。どーせうちの山には登れないから、桂木さんの手伝いをしてこよう。ミドリちゃんにも会いたいし。


「おーい、明日桂木さんとこに行ってくるけど行く人ー」

「イカナーイ」

「イクー」

「イクー」


 ココッとメイから返事があった。だからメイはどっちなんだかわかんないっつーの。


「メイは?」

「イクー」


 タマが教えてくれた。タマさん、通訳助かります。


「タマ、ありがと。じゃあ明日はポチが留守番だな。なんかあったら教えてくれよ?」

「ワカッター」


 ポチは頷くように首を前に動かした。でも撫でようとしたらフイッと避けた。ポチよ、お前もか……。

 ちょっと寂しい。



 翌朝、俺の足の上にタマとメイが乗った。


「おもっ! あっ、タマメイ!」


 俺が起きたことを確認し、タマがバッと飛びのいたが、メイの動きは一瞬遅かった。なので俺も勢いよく上半身を起こしてメイをどうにか捕まえた。


「こーら、メイ! タマもだ! 乗って起こすなっつってんだろーが!」


 ギョワエエエーーッッ!!

 とメイがとんでもない声を発した。さすがに驚いてメイを放してしまう。メイは急いで俺の上からどくと一度コケ、どうにか起き上がってドドドドドと逃げて行った。当然のことながらタマはとっくに逃げている。一緒に来たんだろうに、置いていくとかタマはひどいなと思った。

 桂木さんちに向かうのは十時ぐらいの予定である。

 先に神様のところへ挨拶に行ってから、桂木さんちでお昼ご飯をいただく予定だ。炊き込みご飯と煮物を作ったらしいので、ごちそうになりに行く。

 桂木さんのごはんもおいしいんだよな。

 そう思ってから、なんで俺は桂木さんが対象外なんだろうと思った。男女の友情はあるだろうが、やっぱり出会った時期が時期だからなのかもしれない。

 桂木さんも俺とどうこうなりたいと思っていなさそうだからいいけど。ってそんなこと考えてるって桂木さんに知られたら、すんごく冷たい目で見られそうだ。

 今朝もタマユマは卵を産んでくれていた。


「いつもありがとうなー」


 礼を言って卵を回収する。この卵のおかげでがんばれると思う。

 そういえばメイが生まれてからそろそろ五か月か。もしかしたら卵を産んでくれるかもしれないな。

 朝飯を食べ終えて足をタシタシしているポチを送り出し、畑を見たり、家の周りの草むしりを少ししてから出発した。


「メイは助手席じゃなくていいのか?」


 ココッ! とメイが鳴く。


「また助手席に乗りたくなったら言えよ?」


 首を傾げながら助手席にはユマだけに乗ってもらった。タマとメイはバサバサと飛んで荷台に上がった。


「じゃあ行くぞー」

「イクゾー」


 ユマがオウム返ししてくれるのがかわいくて嬉しい。ついにまにましてしまう。ユマはこちらを見たりもするが、だいたい正面か窓の外を見ている。ドライブが好きなニワトリってかわいいよな。助手席に、といえば掛川さんちのブッチャーは元気かなと思った。って、ついこないだ稲刈りの手伝いに行ったじゃないか。

 そんなことを考えながら、俺はニワトリ三羽と共に桂木さんの山へ向かった。

 桂木さんの山の麓では、桂木さんが待っていた。鍵を開ける為に来てくれたのだろう。


「佐野さん、この間はありがとうございました。お礼もろくにしなくてすみません」


 桂木さんに謝られてしまった。


「お礼とか、別にいいから」


 俺はできることをやっただけだし。


「もー、佐野さんてば! そういうところですよ!」


 なんか最近俺、「そういうところ」って言われすぎてない? 全然意味がわからないんだが。

 コホン、と桂木さんが咳ばらいをした。


「じゃあ行きましょう」

「うん」


 桂木さんが柵を開き、軽トラに乗ろうとしたらヒナが落ちてきた。


「あっ、ミドリ!」


 俺はとっさに桂木さんの側へ移動してヒナを捕まえた。

 キュー、キューと鳴きながら抗議しているのがかわいい。


「こーら、危ないだろ? 勝手に車から降りたらだめだよ」


 ヒナに言い聞かせるように言ってから、桂木さんに渡したのだった。



次の更新は、6/4(火)です。よろしくー

超多忙中です。誤字脱字などの修正は次の更新でしますー

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