662.今日は風が強いらしい
翌日は晴れた。
しかし風が強い。
ニワトリたちはもう出かける気満々で足をタシタシしている。
「ちゃんと食べてから行くんだぞー」
ポチなんか餌を食べている間も落ち着かない。困ったもんだ。
台風情報を見たら、台風は温帯低気圧に変わっていた。よかったなーと思ったけどまた発生の兆しはあるらしい。台風シーズンて確かに9月がピークな気がする。近年は10月とかも複数発生するのが嫌だ。
去年の台風は10月だった気がする。木が一本倒れただけであんなにたいへんなんだなと思った。そういえばまだ重機の免許を取ってない。
「どーすっかな……」
免許を取りに行くのはいいんだが、その間山を空けるのが嫌なのだ。正直に言おう。ユマと行動できないのがなんか寂しい。
ユマも一緒に! なんて言ったら教習所の教官に怒られるだろうか。そもそも重機って実地の講習あるのかな。あるんだよな? たぶん。
「サノー」
ポチが足をタシタシしている。
「あー、もうわかったよ。風強いから気を付けて行けよ。タマ、メイを連れてくならしっかり面倒看てやってくれなー」
「サノー」
「ん?」
タマに呼ばれてタマをじっと見たら、
「ウルサイー」
「えええええ!?」
とうとう文句を言われてしまった。
「ウルサイー」
ポチにも言われてしまった。ショックである。ショックがでかすぎる。もう俺はだめかもしれない。
「デルー」
「メイー」
ポチとタマに言われて、俺は肩を落としたままガラス戸を開けた。メイがココッと鳴き、ポチタマと共に家を出ていく。
確かに俺、過保護だって自覚はあるんだよ。家から一歩出て、ツッタカターと駆けて行く三羽を見送った。
と思ったら、昨日の雨で足元がぬかるんでいたらしく先頭のポチがコケた。
「あ」
その尾がちょうど当たったらしくタマとメイがコケた。
「あああああ……」
けれど一番最初にタマが立ち上がり、立ち上がったポチをつついた。メイもどうにか立ち上がってポチをつつく。クァアアアーーッッ! と雄叫びを上げながら、タマは逃げていくポチを追いかけていった。それにメイもツッタカターとついていく。
やがて、三羽の姿は木々の間に消えて行った。
「……帰ってきたら泥だらけかな……」
遠い目をしたくなった。
でもそうか。もうメイはタマについていけるぐらい足が速くなってたんだな。俺、やっぱりただの過保護だったのか。自覚はありまくりだったけど。
「サノー」
ユマが出てきて俺の横で足を止めた。そしてコキャッと首を傾げる。その姿を見るとつい笑顔になってしまう。かわいい。
「ユマ、どうした?」
「サノー、シンパイー」
ユマが羽をバサバサ動かしてそんなことを言う。
「え? 俺は別に……」
「サノー、メイー、シンパイー」
「ああうん、そうだな……」
ユマがつぶらな瞳で俺を見る。もうすごくでかいんだけど、なんでこんなにユマはかわいいんだろう。
「シンパイー、ナイー」
「そっか。ありがとな」
ユマの羽をそっと撫でた。メイはポチとタマに預けておけば大丈夫と言いたいのだろう。タマははっきり物を言うが、ユマは言葉を選んでくれていると思う。ホント、ニワトリにお世話されて生きてるよなー。
「あー、俺……情けないな」
改めて長靴を履き、畑の周りを見たり、川の方を見たりした。(川の側へは寄らない。今は増水していて危ないはずだ)
それにしても今日は本当に風が強い。ユマの後ろから風が吹いてきて、ユマの羽が逆立ったりした。それを嫌がってか、ユマが身体を揺らしたりする。
お昼ご飯をユマと食べた後で、山唐さんから電話がかかってきた。
互いに挨拶をし、台風も温帯低気圧に変わったみたいだから明日はどうするかと聞かれた。
「うちは向かえますけど、相川さんはどうでしょうか?」
「相川さんもいらっしゃるそうです」
「でしたら、明日向かいます」
「わかりました。昼頃にいらしてください。お待ちしています」
ニワトリたちが喜ぶだろうなと思った。さすがにシカ三頭が全て出てくるわけではないだろうけど、いったいどんな料理になって出てくるんだろうか。考えただけで涎が出てくる。この間のシカ肉の入った餃子もおいしかった。
しっかしここに来てからすっかりジビエがお馴染みになってしまった。冬に狩猟チームと大手を振って狩りに出かけたせいか、ニワトリたちのワイルドさが際立って困る。
ユマが電話を終えた俺にとてとてと近づいてきて首をコキャッと傾げた。
「明日山唐さんちに行くよ。シカ、食べに行こうな」
「シカー!」
ユマは羽をバッサバッサ動かして喜んでくれた。羽が飛ぶ。かわいい。
また換毛の時期だろうか。でもまだちょっと早いかな。とりあえず拾った羽毛は財布に入れる。なんか一枚だけだともったいなくて捨てられない。いっぱい落ちるようになったらさすがに捨てるけど。
今日は洗濯をして外に干したら一部風に飛ばされて、かえって洗い直しになったりもしたが、夕方帰ってきた三羽よりはマシだった。
「マジかよ……」
三羽ともほぼ茶色になって帰ってくるとかなんなんだよ。おかしい、うちのニワトリは真っ白だったはずなんだけどなと思いながら、ポチタマメイをじゃばじゃばと洗ったのだった。(泥がこびりついてなかなか落ちない)
ーーーーーー
ポチの「ウルサイー」は佐野の声が大きくてうるさいでした。
次の更新は27日(金)です。よろしくー
「山暮らし~」4巻、タイトル付書影出ました。
よろしければ見てやってくださいませー
https://kadokawabooks.jp/product/yamagurashi/322308000454.html
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