2000万PV記念SS「厄介な木というのもあるらしい」

お待たせしました。2000万PV記念SSをお届けします。

楽しんでいただけると幸いです~



 春頃、川中さんからヘルプコールが来た。

 川中さんから声がかかるなんて本当に珍しい。相川さんも声をかけられたというので、話だけでも聞きに行こうと川中さん宅へ向かうことにした。

 川中さんのお宅は村の西側にある山の麓にある。川中さんはその部分の土地を山の持ち主から譲り受けたらしい。さすがに山までは手入れしないが、土地の周りを多少手入れすることを条件にその山に入ってもいいと許可をもらっているのだとか。


「やあ、よく来てくれたね。ありがとう~」


 俺たちを出迎えてくれた川中さんは少し疲れたような顔をしていた。

 今日はニワトリたちも全員出席である。川中さんちに行くけどどうするー? と聞いたら、興味を引かれたらしくポチとタマも一緒に来てくれることになったのだ。

 相川さんはさすがにリンさんは同伴していない。


「ニワトリたちも来てくれたのかー。でも今日は出番はないかな。来てくれてありがとう~」


 川中さんは疲れた笑みを浮かべ、ニワトリたちに礼を言う。ココッ、コココッとニワトリたちがそれに応えた。

 川中さんはニワトリたちに青菜も用意してくれた。いい人である。


「川中さん、何かあったんですか?」

「ああうん……ちょっと厄介なことがあってさ。とりあえず上がってくれる?」


 相川さんが聞くと、川中さんはため息をついた。

 平屋建ての、うちぐらいの広さのあるお宅にお邪魔した。土間が広いのもうちと同じだ。段差があって、障子を開けたら居間である。ニワトリたちは庭で好きにしていていいと言われたので、庭に残ることにしたようだった。


「コーヒーでいいかな? インスタントだけどね」

「おかまいなく」


 コーヒーを一口啜る。うまい。そういえば俺、コーヒーってあんまり飲んでないなと思った。

 話を聞いてみた。


「藤、ですか?」


 この家の裏手に杉の木があり、その木に藤の蔓が絡んでいるのに先日気づいたらしい。藤の花が咲いているのを山の持ち主に見られて、切り倒せと言われてしまったそうなのだ。

 相川さんは難しい顔をした。


「藤の木は確かに困りますね」

「僕あんまり昼間に家にいることってないから全然気づいてなかったんだよ~。あんまり家の裏手も見ないしさ。罠を仕掛けてる方ではなかったし、しかもちょっと見えづらいところで繁殖してたっぽくて……。でも藤の木をそのままにしておくわけにいかないでしょ」

「どこかから種が飛んできた……とはあまり考えづらいですから、隣の山からのクローン繁殖ですかね」


 藤の木をどうにかしたいという話のようだけど、なんでそんなに焦っているのか俺にはわからなかった。


「隣の山の持ち主にも言ってもらうようにしないとだよね~。面倒だなぁ」


 川中さんがうんざりしたように言う。


「えーと、すみません。藤の木って、なんか害があるんですか?」

「あー……」

「佐野さんの山では見ませんから、わかりませんよね」


 川中さんと相川さんが説明してくれた。

 どうやら藤の木というのは、木に巻き付いてどんどん上に伸びていき太陽光を独り占めにしてしまう植物なのだという。巻き付かれた木はそれで枯れてしまうことが多いので、藤の木というのは厄介者なのだそうだ。

 種ではなかなか増えないらしいのだが、クローン繁殖といって根元から枝を伸ばして地面を這いながら伸びていくのだという。そして太陽光が当たるようになるとそこから芽が出て別の木に絡みつく。そうやって繁殖していくのだそうだ。

 植物怖っと思った。


「あとはね~、藤の木が繁殖してるってことは山の手入れをしていない証拠みたいなものだから見られたくないんだと思うんだよね~」

「ああー……」


 それはあるかもしれないと、山の持ち主に対して同情した。

 そんなわけで俺たちは藤の木を切る為に呼ばれたらしい。

 杉の木に絡みついている藤の根元を確認する。ユマが出てきた俺たちに気づいて近づいてきた。

 俺の前でコキャッと首を傾げる。かわいい。


「ユマ、俺たちは木を切るから、危ないからあっちに行っててくれるか?」


 ココッとユマは返事をして、身体を揺らすようにしながらポチとタマがいる方へ戻っていった。


「言葉がわかるっていいよね~。やっぱニワトリかわいいよな。僕も何か飼うかな~」


 川中さんがにこにこしながら言う。


「でも川中さん、仕事忙しいんじゃないですか? 毎日夜に帰宅だとペットは寂しがりますよ」


 相川さんに言われて、川中さんはがっくりと首を垂れた。


「そうなんだよね~。かわいそうな思いはさせたくないもんな」


 鉈とノコギリで藤の蔓を切っていく。まだそれほど年数は経っていなかったらしく、蔓はそれほど太くはなっていなかった。


「これぐらいの太さでよかったですね」

「だね~。確か藤の木って四年を越すと太くなるんだっけか」


 木をどうにか切り倒し、咲いていた花は相川さんが回収した。


「ちょうどいいのがありますから、天ぷらにしますかね」

「え? 藤の花をですか?」

「はい。この、二分咲きぐらいのを天ぷらにすると甘味があっておいしいんですよ。佐野さん、是非食べにきてください」

「行きます行きます!」

「相川君、僕は~?」

「うち、あんまり人入れたくないんですよね。あ、これぐらいのはビールに入れて飲むとおいしいですよ」

「ひどい、佐野君だけ呼ぶなんて~。でもビールに入れて飲むのもおいしそうだねー」


 川中さんはふてくされたような顔をしたが、相川さんが示した藤の花をいそいそと回収した。天ぷらよりビールの方が勝ったらしい。

 川中さんに「これ、気持ちだけど~」とお小遣いをもらってしまった。相川さんは素直に受け取っていたから俺もいただくことにする。


「もらってくれてありがとね~」


 その方が次も頼みやすいということなんだろう。女子が絡まなければいい人なんだよなと改めて思った。

 藤の木も相川さんが回収していくようだ。


「せっかくですから切って薪にします」


 食べたり燃料にしたりと、山に育つものにあまり無駄はないらしい。ただし藤の木は嫌がられる。

 ニワトリたちを呼んだ。


「おーい、これから相川さんちに行くぞー」


 タマがあからさまに不機嫌そうな顔をしていたが、しかたないだろう。

 帰宅したらつつかれそうだけど、藤の花の天ぷらはどうしても食べてみたいのだった。


おしまい。



川中さん、悪い人ではないんですよええ。女子が絡まなければ(笑)

藤の木が厄介という話は↓を参照しました。

http://www.forest-akita.jp/data/2017-jumoku/34-fuji/fuji.html

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