661.秋の雨の日はこう過ごす

 今朝は雨だった。

 ニワトリを出すか出さないか微妙な降り方である。雨雲のレーダーの予想を見ているけど判断がつかない。


「うーん、どうしよっかなー……」

「ソトー」

「イクー」

「サノー?」


 ココッとメイが鳴く。スマホで確認している間も、うちのニワトリたちは待てないらしい。


「ちょっと待ってくれって」

「マツー?」

「マタナーイ」

「サノー?」


 ココッと合いの手を入れるようにメイが鳴く。ああもううちのニワトリうるさいかわいいなもう。自分でももう何を考えてるのかわからない。つか、表を見た方が早い。


「まだ出ないからなー」


 玄関のガラス戸の前にいるポチとタマを追いやって開けてみた。


「うーん……けっこう降ってるなー……」


 びしゃびしゃと屋根から雨は垂れてるし、実際雨はけっこうな勢いで降っていた。これは明らかに台風の影響だろう。天気図だとかなり離れてても広範囲で被害が起こるから台風は嫌なんだよな。


「もう少し落ち着いてから出かけてくれ。今はだめだよ」

「エー」

「エー」


 コココッとメイまで鳴いて抗議する。


「あんまり濡れると病気になるだろ? 病気になったら身体が動かなくなって何日も出かけられなくなるんだぞ? わざわざこんなひどい中出てって病気になったら、シカは食えないかもなー」

「シカー」

「シカー」

「シカー」


 コココッとメイが鳴いた。どうやらわかってくれたようである。やれやれだ。

 とはいえ土間に一日いてもらっても狭いし、退屈には違いない。でもなぁ、家畜の場合って退屈とかあんま考えないよな。養鶏場の鶏舎の中をふと思い出した。最初に一度だけ入れてもらってみたことがあったけど、けっこう広くていいなと思った記憶がある。狭い中に閉じ込められているかんじがなくて、ここで育った鶏はおいしく育つんだろうなって。

 いや、うちのニワトリは自由奔放だけど食べないから。そんなこと考えようものなら俺が返り討ちに遭うし。

 とりあえずごはんを食べることにした。

 ナスとじゃがいものみそ汁がうまい。

 ナスはどういうわけか水から煮ないとあまりうまくない。(個人の感想です)鍋にだしとナス、じゃがいも、水を入れて煮て、火を止めてみそを入れる。たったこれだけの汁なんだがたまらなくうまい。

 俺はいったい何を語っているのか。

 ユマタマの卵を一個使わせてもらってベーコンエッグと漬物でごはんを食べた。朝から贅沢である。

 昼はもらってきたソウギョの切り身を焼こう。皮にはけっこう臭みがあるらしいので山唐さんが取ってくれた。基本は白身なのでなんにしてもうまいらしい。とても楽しみだった。

 さて、食べ終えて片付けてニワトリたちを窺えば、ポチはつまらなそうに土間でうろうろしている。タマユマメイは土間でおもちになっていた。やることがないからなんだろう。

 そういえば家の中の掃除をしていなかったなと思い、ニワトリたちに声をかけた。


「なぁ、家の中の虫退治、手伝ってくれないか?」

「ヤルー」

「ヤルー」

「ヤルー」


 ココッとメイも合わせてみんなで返事してくれた。いつもだと朝から夕方まで外を駆けずり回っているから、頼むとしてもユマだけになるのだが、四羽で見回ってくれるそうでとても助かる。

 うちは元庄屋さんの家だからそれなりに広さがある。

 ニワトリたちが暮らしている玄関兼土間兼台所兼居間が一番スペースとしては広く、その隣に俺が寝ている部屋、その隣に二部屋使っていない部屋がある。

 俺の部屋は隣の部屋と襖で仕切っているだけで、襖を取っ払うと実に十六畳ぐらいの広間になる。更に押し入れと床の間があるから、かなりの広さだ。その奥にもう一部屋あり、そこはほぼ物置状態だった。

 ニワトリたちの足を拭き、上がってもらう。


「虫とかいたら食べてくれよ」

「ワカッター」

「ワカッター」

「ワカッター」


 ココッと鳴いてくれるのがなんとも頼もしい。俺もホウキとチリトリを持って家の中を掃除した。

 雨が降っているせいかなんとも湿っぽい。家の周りの草むしりはそれなりにしているつもりだが、家の周りは土だからどうしても湿っぽくなる。座敷と縁側の間にあるくれ縁に置いた炭を乾いた物に交換する。炭は天日に干せばまた湿気取りとして使えるからいい。


「明日は晴れるといいな……」


 そんなことを言いながらニワトリたちに掃除を手伝ってもらった。俺が思っていたより虫が入り込んでいたみたいだった。まぁ玄関だけでどうにかならないもんだよな。この時期、蚊はどうしても入ってきてしまうし。とりあえず俺の部屋と隣の部屋に繋がっているくれ縁に蚊取り線香を置いた。


「ありがとなー」


 昼にソウギョを切って軽く湯がいた物をニワトリたちにあげた。おいしく食べてくれてよかった。

 俺はバターがあったので、ソウギョをムニエルっぽく焼いてみた。うまい。


「サノー」

「ソトー」


 餌を食べ終えるとポチとタマがそわそわし出した。

 そろそろ表に出たいのかもしれない。俺は苦笑した。


「お前らなぁ……ちょっと確認するからまだ待ってろよー」


 ガラス戸を開ける。気持ち朝よりは雨足は収まっているように見えた。あくまで気持ち、だけど。


「うーん、できれば今日は止めてほしいんだけどなー……」


 明らかに小雨になっていれば出してやるんだが、この雨の中表に出す気にはとてもなれない。

 クァーッ! と声がして振り向くと、メイが羽をバサバサさせながら駆けてきた。


「えっ?」


 そして少し開けた戸の隙間に無理矢理身体をねじ込んで、そのまま表へ出たかと思うと、べちゃっと倒れた。


「えっ? メーイー!!」


 びっくりしたなんてもんじゃなかった。家から出れば二、三歩で土である。雨がけっこう降っているから水たまり状態になっているところにメイが顔から倒れたから、俺は慌ててメイを起こして抱きしめた。

 ココココッ! とメイが怒る。


「いや、だめだろ。だめだって。洗うから、ああもう茶色くなってるしー!」


 慌ててそのまま風呂場まで持ってって洗った。

 クァーッ! コココッ! とメイはずっと怒っていた。

 どうにか洗い、乾かして戻ったら、開けたままだったガラス戸を塞ぐようにしてポチが立っていた。


「ポ、ポチ……それは、何やってんだ?」

「アメー」

「ヌレルー」

「ハイルー」

「ああ……そっか。雨が入ってこないようにバリケードになっててくれたのか。ありがとな……」


 ニワトリたちにはうまく閉められなかったらしい。外側からの開け閉めはある程度できるみたいなんだが、内側からは難しいんだなと学んだ。

 ニワトリたちをそっと撫でる。今日はタマも少しは撫でさせてくれた。


「早く雨止まないかな……」

「ヤメー」

「ヤメー」

「ヤンデー」


 コココッと不機嫌そうにメイが鳴く。

 ニワトリと暮らす生活はたいへんだけど、楽しいなとしみじみ思ったのだった。



ーーーーー

次の更新は24日(火)です。よろしくー

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