660.鯉はこんな料理になりました
「もう出かけるなよー」
とニワトリたちに言い置いてレストランに戻った。(ユマは身体を揺らしながら付いてきた)
せっかく山唐さんが戻って来たのに魚をどうするのかとか全く決まっていない。
山唐さんは厨房にいた。本当にお疲れ様である。
「佐野さん、鯉はどうなさいますか? 骨切りをすればニワトリにもあげられるとは思いますが」
「あー、そうですね……」
山唐さんに聞かれてどうしたものかと考える。その骨切りが面倒そうなのだ。でも釣り上げたのは俺だからがんばるしかないだろう。
「骨切りをするのはたいへんだとは思うので、ソウギョの切り身と交換しますか?」
「えっ?」
「鯉よりは小骨は多くないので、よろしければ」
「……ありがたいですけど、それはさすがに図々しくないですか?」
ちょっとそれは俺に都合がよすぎると思った。山唐さんは苦笑した。
「実のところ、私は中国の魚をみなさんに食べていただいて好きになってほしいんです。あの池はいわば放棄された養殖池なので、定期的に間引きをしないといけません。なので食べていただけるのが一番助かるんです。鯉は放流してもそこまで問題はありませんが、四大家魚はそういうわけにはいきません。助けると思ってどうぞお願いします」
「そういうことでしたら……」
本当のところはどうなのかはわからないけど、そこまで言われて遠慮はできなかった。
「じゃあ、鯉はどうされるんですか?」
「そうですね。今から少し揚げましょう」
というわけで、山唐さんが食べやすい大きさよりも小さめに切った鯉に衣をつけて揚げてくれた。甘酢のあんかけまでついてきて、おやつにしては豪華だなと思った。骨切り、見せてもらったけどかなりのスピードで、更にかなりしっかり包丁を入れていた。鯉の皮は強いので包丁をしっかり入れてもなかなか切れないらしい。取りにくい小骨はそうやって骨切りすることでおいしくなるのだそうだ。
うん、下ごしらえは大事だよな。
ユマは骨切りして湯がいた鯉をもらってご機嫌だった。
「鯉だよ」
「コイー?」
コキャッと首を傾げる姿が本当にかわいい。最近四羽で一緒にやってくれたりもするから、その度に俺は悶絶しそうになる。タマにはすんごく冷たい目で見られるのがつらい。でもかわいい。(ニワトリバカ全開)
「おいしい?」
「オイシーイ!」
「かわいい……」
思わず呟いてしまった。
「カワイイー?」
ユマが反対側に首をコキャッと傾げる。
「うん、ユマはかわいいよ」
「カワイイー!」
ユマが喜んで羽をバッサバッサさせた。そういえば最近このやりとりしてなかった気がする。メイもいるからなんつーかみんなかわいいんだよな。
「ユマちゃんかわいいですねー!」
山唐さんの奥さんがにこにこしながら言う。ハッとした。レストランの中である。
「す、すみません……」
ちょっと恥ずかしかったかもしれない。
「いえ、勉強になります」
利山さんが興味深そうな表情で言う。それが本気なのかどうかわからなかった。
「
流さんが小さい声で伝える。
「そういうものですか? 確かに、彼らにはユマさんほどの愛らしさはありませんね」
利山さん、わかりづらいけどけっこうあの二頭のこと好きなのかなと思ったりした。
「……これぐらいの大きさに切るとスナック感覚でおいしいですね」
相川さんは山唐さんと話していた。やっぱりあちらは料理で盛り上がるみたいだ。
帰りに約束通りソウギョの切り身をいただいた。かなりの重量である。
「こんなにいただいていいんですか?」
「また釣りますから気にしなくていいですよ」
釣る? というところで引っかかった。草を池に入れて、ソウギョが集まってきたところをタモ網で掬って投げ飛ばしていたような……。
うん、まぁ釣りってことにしておこう。ああいうのは突っ込んだら負けだ。
シカに関しては業務用の冷凍庫があるので内臓も何もかも急速冷凍しておくという。何日か置いた方がおいしいのは間違いないので三日後ぐらいに来てもらえるとなんて言われた。
それを聞いてちょっと引っかかった。何か大事なことを忘れているような気がした。これは思い出さないといけない気がしたので、うーんと考える。ユマが心配そうに俺の顔を見ていた。
それで思い出した。
「あれ? そういえば台風が来ていませんでしたっけ?」
「そういえば台風情報もありましたね」
スマホを出して確認する。
「あれ? 逸れたのか……」
どうやら台風は逸れたみたいだった。とはいえ少し掠ってくる可能性もないとは言えないので、温帯低気圧に変わるまで様子を見ようという話にはなった。
天気予報を改めて確認すると、ちょうど明日は雨が降りそうである。ちょっとぐらいの雨ならニワトリたちを表に出してもいいのだがどうなんだろう。
新たな台風が発生しませんようにと願いながら、ニワトリたちを回収して帰路についた。
帰宅してから、何故か思ったよりも汚れていたポチ、タマ、メイをざっと洗った。
「なんでこんなに汚れたんだ? シカを狩った後キレイにしただろー?」
「イヌー」
「ネコー」
ココッとメイが羽をバサバサ動かしながら鳴く。
「んー? もしかして韋駄天君たちに巻き込まれたのか?」
「クッツクー」
「ゴロゴロー」
「まじか」
でっかいオオカミみたいなワンコ二頭とでっかいネコ、そしてニワトリたちがわちゃわちゃしている図を想像し、ちょっと見たかったなと思った。
すぐに気づかれてタマにつつかれたのは理不尽だと思う。
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次の更新は20日(金)の予定です。よろしくー
サポーター連絡:15日に限定近況ノートを上げました。よろしければご確認くださいませー
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