655.釣りをすることになったんだけど

「こちらの川にも魚がそれなりに上ってくるんですね」


 そして水が溜まった辺りにけっこう棲んでいるみたいだ。ユマも頭を突っ込んで川魚を獲っていた。こんないい水場があったら野生動物もそれなりにいそうである。小さな池というか、淵とでもいうのか、ここより上となると湧き水が出てきている場所だからそこまで魚は上がらないだろうと思った。


「柵はどれぐらい詰めたものを付ける予定なんですか?」


 相川さんが気になったらしく山唐さんに尋ねる。


「そうですね。東の村に通じる流れと同じぐらいのものを用意するつもりです」

「あとでそちらも見せていただいていいですか?」

「はい、後ほど案内しましょう」


 ユマは楽しくなってしまったらしく、ひょいひょいと川魚を獲った。一匹は食べたがそれ以降は俺にくれようとする。相川さんがちょうどバケツを持ってきてくれていたのでそちらに入れさせてもらった。俺もバケツ、持ってくればよかったな。


「相川さん、すみません」

「いえいえ、ユマさんは魚獲りも得意なんですね。すごいです」


 相川さんは楽しそうに目を細めた。リンさんは三匹ほど獲って食べると相川さんの側に控えた。とりあえずそれで満足したらしい。


「でも……ここまで飛んできたなんてすごいですね……」


 周りを見回しながら呟いた。ハクレンのことである。釣りをしていて勢い余ってとは聞いたけど、こんなに遠くまで飛んできたとは思わなかった。(ハクレンが自力で飛んだとは思っていない)


「ああ」


 山唐さんが気づいたように声を上げた。


「利山が釣り上げたそうなのですが、その勢いで針が取れてこちらの方まで投げ飛ばした形になったというのが真相のようです」

「えええええ?」


 投げ飛ばしたあ?

 目をパチクリさせてしまった。

 しかし、利山さんというと流さんの奥さんだよな? いくら勢いが乗っていたとはいえあの大きさを釣り上げたとは……なんという膂力りょりょくだろうか。(怪力とは言わない)


「それは……すごいですね」


 相川さんが苦笑した。ユマは魚を獲るのが楽しくなってしまったらしく、最終的に七匹ぐらい捕まえてくれた。


「これは後で塩焼きにしましょう」


 山唐さんがにこにこしながら言ってくれた。そうしてやっと池に戻り、釣りを始めることにした。

 魚によって釣り方は違うらしい。山唐さんは何故かそこらへんの雑草を刈り始めた。


「?」

「山唐さんはソウギョを釣られるつもりでしょう」


 相川さんが言う。


「ソウギョと草刈りって何か関係あるんですか?」


 開けたところに出てくるとかなのかな? と思ったけど違うらしい。

 ソウギョは草魚と書き、草食なので雑草なども食べるのだそうだ。食べにきたところをタモ網などで捕まえるらしい。


「へえ……」


 普通に釣り竿で釣るのではないようだ。


「あら? ユマちゃんがお魚獲ったの? すごーい!」


 山唐さんの奥さんがユマを褒めている。ユマは嬉しそうに羽をバサバサさせた。うん、手放しで褒めるのがいいんだよな。俺も後でいっぱい褒めることにしよう。


「スゴーイ!」


 ユマが嬉しそうに声を上げる。そしてバサバサ羽を動かしながらこちらへ来た。


「うんうん、ユマはすごいなー」


 羽を撫でてやるととても嬉しそうだ。全く、ユマはなんでこんなにかわいいんだろうなぁ。デレデレしてしまう。

 あやうく目的を忘れるところだった。今日は釣りに来たのである。フナもコイもいるので、ちょっと何か餌を付ければ釣れるらしい。何を釣っても山唐さんが下処理をしてくれると言っていたから安心してできそうだった。


「相川さんは何を釣る予定なんですか?」

「ハクレンを釣ってみたいですね。こちらのハクレンはあまり臭みもなさそうですから」


 そう言いながら何やら準備している。


「? 相川さん、それってなんですか?」


 相川さんは大きめのタッパーを持ってきていた。中身は白というか黄色がかった団子のようである。それがいくつも入っている。


「マッシュポテトですよ」

「マッシュポテト?」


 なんで釣りにマッシュポテトと首を傾げてしまった。


「ヘラブナや、ハクレンは好んで食いつくと聞きましたので作ってきました」

「ええっ? わざわざマッシュポテト作ってきたんですか!?」


 驚いた。相川さんが作ったマッシュポテトを食べる魚。それはちょっと贅沢すぎやしないか? マッシュポテトだけ取られたらちょっと許せないぞと思ってしまう。


「マッシュポテトといっても味は付けてないですし、固まりやすいように小麦粉を加えたりしていますよ?」

「魚の餌に相川さんの手作りとか……」


 相川さんの料理もおいしいんだよなぁ。

 そんなことを話していたら、バシャーンッ! と派手な音がした。そちらを見るとでかいタモ網で山唐さんが魚を獲ったところだった。しかもそれを何故か軽くだけど投げている。ソウギョが2mぐらい飛んだ。それを奥さんが慌てて押さえる。


「えええええ」

「山唐さん、ソウギョは投げないようにと言っているではないですか」

「この方が手っ取り早くてな。これぐらい許容範囲だろう」


 利山さんが窘めるように声をかけた。


「あちらのお二人が目を丸くされていますよ」

「……それはまずいな」


 釣りってー……えーと、釣りってどうやるものなんだっけ?



ーーーーー

次の更新は10/3(火)です。よろしくー


なんで隣村の山の人たちはアグレッシプなのかと思ったら、「虎又さんとお嫁さん~イージーモードな山暮らし~」をご覧ください。

https://kakuyomu.jp/works/16817139556261771572

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