653.みんながみんな同じではないらしい
流さんにとっては、あれもこれも驚くべきことだったらしい。
まぁそうだよな。普通はこんなでかいニワトリはいないだろうし、しかもニワトリがしゃべるなんて聞いたことはない。
「でっかいニワトリって……えーと、三羽と、もう一羽?」
流さんが利山さんを見る。
「そういえば一羽生まれたのでしたか。これはとんだ失礼をいたしました」
利山さんはそう言うと、ユマとメイに近づき、頭を下げた。当たり前のようにされる動きは、それはそれで不思議なかんじがした。
「ダイジョブー」
ココッとメイも返事をする。
「韋駄天と疾風が無体を働くようでしたら遠慮なくお知らせください」
「ハーイ」
「ワカッター」
この返事はポチとタマだった。トラ君がえいっというかんじで韋駄天と呼ばれたオオカミ? みたいなでっかい犬に突撃する。
「に゛ゃああ~!」
相変わらずのだみ声だ。トラ君の背に疾風と呼ばれた、こちらもオオカミ? のようなでっかい犬が乗る。
「に゛ゃあああ~!」
これは悲鳴っぽい。
「ああああ……疾風、だめだよ。トラ君が困ってるから!」
「韋駄天、疾風!」
流さんがおろおろしていると、利山さんが厳しい声を発した。それでオオカミ(ってことにする)二頭とトラ君が固まった。
「ご迷惑をかけるようでしたら、またしっかり洗いましょうか?」
利山さんの手がワキワキし始めた。オオカミ二頭はしぶしぶ引き下がる。洗われるのは嫌らしい。動物ってあんまり洗っちゃいけないとは聞いているけど、うちは毎日洗いまくりだな。今更ながら大丈夫なんだろうかとか無駄なことを考えた。
釣りの道具は揃っているので、道すがら話すことになった。ちなみに俺が持参した釣り竿は無事だった。タマは怒っていたようだが、荷台に載せた荷物に八つ当たりしたりはしなかったようだ。タマ、ごめん。
「上半身が女性って不思議なかんじですね……しゃべってくれるのもいいな」
道すがら流さんがポツリと呟いた。
「そちらの韋駄天君と疾風君はしゃべらないんですか?」
「もしかしたらしゃべれるのかもしれないけど、僕の前でしゃべったことはありません」
「そうなんですか」
しゃべる基準ってなんなんだろうと考える。本人が人の言葉をしゃべる必要があるとかないとか考えてしゃべれるものなのかな。
「必要の有無ですね。知能も関係してはいますが、佐野さんのところのニワトリや、相川さんのところの大蛇はとても頭がいいです」
利山さんが淡々と答える。やっぱりうちの子たちは頭がいいのか。なんか嬉しい。
それにしても面白いなと思ったのは、山唐さんが背負子を担いでいるのだが、その背負子に奥さんを乗せていることだ。いつも当たり前に背負われているらしく、
「恥ずかしいですよ……」
と奥さんが言っていたけど山唐さんは奥さんが乗るまで動かなかった。
「ラブラブだなぁ」と呟いたら、ニワトリたちが、
「ラブラブー?」
「ラブラブー」
「ラブラブー」
コココッと唱和してくれた。だからなんでよくわからない呟きにうちのニワトリたちは反応するんだろうか。相川さんが笑いを堪えていた。
「す、すみません……」
「間違っていません。私は妻を愛していますので」
山唐さんがさらりと言う。
「ああうう……」
奥さんは真っ赤になりながら観念して背負子に乗った。
そんなわけで出発までに少し時間はかかったが、無事北側の山へ向かうことができた。山と山はなだらかに繋がっており、アッブダウンは激しくない。うちの山とはえらい違いだ。って、こっち側の山は元々うちの方の山ほど高くはないみたいだった。
山唐さんたちについて行くと、大きな池、というか湖のある場所へ出た。
「うわぁ……」
湧き水が溜まってできた池みたいなことを聞いたけど、本当に広い。どれぐらいの年月をかけたらこんな池ができるのだろう。
池の更に北側に小屋のような建物がある。その建物の前に小舟があった。それで流さん夫妻が先日釣りをしたらしい。
「けっこう広いですね」
「はい。おかげで養殖池として選ばれたようです」
「すごいなぁ……」
山唐さんが答えてくれた。
「ここって深さはどれぐらいあるんですか?」
「かなり深いです。すり鉢のようになっているので、泳げない場合は絶対に入らないようにしてください」
「わかりました」
ニワトリたちに集合してもらう。
「ここが池なんだけど、深いから絶対に入っちゃだめだってさ」
「エー」
「エー」
「エー」
ココッと文句を言われた。
山唐さんが奥さんを下ろしてこちらへ来た。
「この池はかなりの深さがあるから危ない。この辺りでもイノシシやシカが出るから、できればトラや韋駄天、疾風と共に見張ってもらえると助かるがどうだろうか?」
「ワカッター」
「ワカッター」
「ワカッター」
ココッととてもいい返事があった。俺の言うことは聞かないのになぁ。
ため息をつく。
ニワトリたちはトラ君がいる辺りへ向かおうとしたが、ユマだけは先に俺に近づいてきて、すりすりしてからそちらへ行った。
「……ユマがたまらん」
なんでユマってあんなにあざとかわいいんだろうなぁ。
くっそ、めちゃくちゃかわいい。
「ユマさん、さすがですね……」
頭を抱えた俺に、相川さんが呟いた。
しょうがない。かわいいは正義だ。(意味不明)
次の更新は26日(火)です。レビューいただきました! ありがとうございます。
1900万PV突破しました。いつもお読みいただきありがとうございます。
本日は「山暮らし~」コミックス1巻の発売日ですよーい! 私ものちほど本屋巡りに行ってきます。コミックスだからいろんなところにあるかなっ?
これからもどうぞよろしくお願いします。
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