652.連絡はしっかりすべき。何事も
散々な目に遭った。
報連相は大事である。
しみじみそう思うんだけど、きっとまた忘れそう。(懲りない)
レストランの大きなテーブルには、コスモスが飾られていた。
「もうそんな時期ですね」
相川さんが笑みを浮かべた。
そうだよなと思う。残暑は厳しいけど、9月といえばもう秋だった。
「釣りの道具などはお持ちですか?」
「一応、釣り竿はあるんですけど普通ので対応できますか?」
山唐さんに聞かれて答える。実はどこぞの湖に釣りに行ったことがあり、釣り竿だけは持っていた。ちなみにその時は道具を揃えただけで何も釣れなかった。
「持っていらしたなら、見せていただければそれで判断しますよ」
「お願いします」
それは荷台に載せてきたのだった。怒り狂っていたタマに破壊されていないことを願おう。
「佐野さん、釣り竿持ってたんですね」
「ええ、使ったのは一回きりで、しかも何も釣れなかったんですけど」
なんとも情けない話である。お茶を飲んで漬物を摘まんでいると、車が停まる音がした。
「いらっしゃいましたね」
奥さんが席を立ち、店から出て行った。そういえば今日は南側の山に住んでいるご夫婦も一緒に行くと聞いていた。
しばらくもしないうちに、奥さんが二人を伴って戻って来た。
「初めまして、
流れるように挨拶をし、俺たちに名刺を差し出したのは、すらっとした背の高い奥さんの方だった。
慌てて立ち上がり、名刺を受け取る。俺からは特に渡すものはない。
「初めまして、佐野と申します」
「初めまして、相川です」
お互いに挨拶をする。流さんの旦那さんの方は、奥さんと違って線の細い男性だった。
「苗字が同じで紛らわしくなりますので、私のことはどうぞ
流さんの奥さんはそう言った。すごく堂々としている、見た目はキツいかんじの美人である。髪は短めだ。なんとなくその姿は気位の高そうな猫を思わせた。
「流さん、お茶をどうぞ」
山唐さんの奥さんがお茶を運んできた。流さんにはお茶を、そしてその奥さん―利山さんの前に置かれたのは水だった。
「ありがとうございます」
旦那さんの方はなんとも落ち着かないかんじである。もしかしたら人見知りなのかもしれない。
「その……先日は本当にすみませんでした……」
消え入りそうな声で流さんが謝った。
「え? いえ、謝られるようなことは何も。魚の件でしたらうちのニワトリたちがおいしくいただきましたし」
「うちも蛇たちが食べましたので大丈夫です」
「……ニワトリ? 蛇?」
流さんは首を傾げた。あれ? 流さんって知ってるんじゃなかったっけ? そんなようなことを山唐さんが言っていたような……。
「
利山さんが流さんに説明してくれた。
「あ、あの……うちの大蛇は……」
相川さんが言いづらそうに口を開いた。
「存じております。一頭は上半身が女性に擬態しているとお聞きしています。流が驚くかもしれませんが、それだけはご容赦ください。私共はめったに山を下りませんし、人様の事情を誰かに話したりもいたしません。信用していただけると幸いです」
利山さんがよどみなく答える。表情はあまり動かないが、とても有能な人なのだろうということはわかった。
「はい、そういうことでしたらかまいません」
相川さんは納得したらしかった。
「ではそろそろ行きましょうか」
少し落ち着いたところで山唐さんの声がかかり、みな立ち上がった。
「あれ? そういえば流さんも動物を飼っていらっしゃるんですか?」
「はい。基本は山の中で自由にしているのですが、今回はせっかくの顔合わせですので連れてきました。その……かなり大きい犬が二頭なのでちょっと怖いかもしれません」
「そうですか」
大きい犬かー。ってことは穏やかなのかな、と思ったけど、レストランを出ると唸り声やらクァアーーッ! といった威嚇などあまりよろしくない声が聞こえてきた。
「……喧嘩とかしてないだろうな?」
威嚇しているだけならいいのだが、とみなで動物たちのいるだろう場所へ向かったら、ポチタマとでっかい犬、というかオオカミのような風貌をした動物が対峙していた。犬の後ろにはもう一頭とトラ君が。ポチタマの後方にはユマとメイ、そしてリンさんテンさんがいた。
「韋駄天! 何をしているんだ!?」
流さんが真っ先にその場に駆けつけ、一番前にいたでっかい犬にしがみついた。
ウウウ……と犬はまだニワトリたちに威嚇している。
「ポチタマ、どうしたんだ?」
「エモノー」
「え?」
「チガウー」
「えーと?」
山唐さんがやってきた。
「韋駄天にも説明すべきでした。韋駄天、疾風も。このニワトリはこちらの佐野さんが飼っている。お前たちの獲物ではないから手を出すな」
山唐さんに言われて、犬たちはしぶしぶといったように引き下がった。
ユマとメイが俺に近づいてくる。
「サノー」
ココッとメイが鳴く。
「大丈夫だったか? いっぱいいるから混乱するよな」
声をかけて羽を撫でた。ユマもメイも気持ちよさそうにしている。
「……しゃべった」
流さんがポツリと呟いた。
「すみません。それについても言い忘れていました」
利山さんがしれっと言う。
人のことは言えないけど、できれば知っていることは言っておいてほしかったなと思ったのだった。
次の更新は22日(金)です。
22日は「山暮らし~」コミックス1巻の発売日ー! ひゃっほい!
本日はまた近況ノートにてお知らせ出すかもしれません。
よろしくですー
宣伝ですー。
「黒竜王は花嫁を溺愛する」(一部完結)
https://kakuyomu.jp/works/16817330662536026076
橙紅(鳳雛)視点の番外編を昨日上げました。よろしければご覧くださいませー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます