651.大事なことってこんなこと

 ……俺に学習能力はなかったみたいです。

 朝、足の上にタマがのしっと乗っかった。

 昨夜思い出さなかった大事なことってこれかぁと思った。タマは俺が目を覚ましたことに気づくと、俺の足からバッと跳び下りた。でも俺が身体を起こさないのを見てか、布団をつついた。


「あ、うん。起きるよ……」


 ふぁーっとあくびをして上半身を起こす。

 タマは満足したように首を動かすと、トトトッと部屋を出て居間の方へ向かった。


「そうだよなー……なんでタマが起こしにくるのがわかってるのに言っとかないかな」


 また仕事をする必要がなくなった目覚まし時計を止め、支度を始めた。

 うちで目覚まし時計がまともに仕事をする日なんて、年に何回もないんじゃなかろうか。それでもセットしないって選択肢はないんだけどさ。

 持ち物などは昨日まとめてある。今朝は早いのでニワトリたちに餌をあげている間にお茶漬けを流し込んだ。お茶漬けの素がうまいんだよな。なんでこんなにうまいものを発明してしまうんだろう。たまに食べるとたまらない。


「じゃあ、出かけるぞー」


 家に鍵をかける。

 今日は全員で出かけるから戸締りは必須だ。鍵をかけないでおいて何日か留守にしたりすると他の動物が住み着いてしまうなんて例もあるらしい。うちは特に引き戸だしな。

 ユマとメイには助手席に乗ってもらい、軽トラの荷台にはポチとタマが自力でバサバサと飛んで乗った。あの尾って相当重いんじゃないかと思うんだが、軽々と乗るところがいつもすごいと思う。


「さー、隣村にしゅっぱーつ」

「シュッパーツ」


 ユマが言い、ココッとメイが鳴く。反応してくれるのがかわいくてしょうがない。

 にまにましながら軽トラを動かした。

 麓に下りると、相川さんの軽トラが待っていた。荷台にテンさんが乗っているみたいで、かけられたビニールシートの下から顔が覗いた。ちょっと怖い。横付けして声をかける。


「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそお願いします」


 なんか荷台でクァーッ! とかニワトリの鳴く声がしたが、いつものことなので気にしなかった。うちのトラックを先頭にして、そのまま村を抜けて山唐さんの山まで向かったのだった。


「?」


 途中、なんでいつまでも荷台の方が騒がしいのかなとは思っていた。でも相川さんの軽トラが後ろからついてきているから、ポチとタマに異常があれば教えてくれるだろうと勝手に考えていた。

 隣村に入り、その周りの道を進むようにして「真ん中山レストラン」の看板を見つけた。そちらの道を上がっていく。ユマとメイはいつになく落ち着かない様子だった。

 そうして、レストランの建物が見えてきた。

 駐車場に軽トラを停める。

 軽トラから降りると、タマが荷台からバッと跳び下りた。


「サノー!」

「え?」


 なんか怒っているみたいだ。なんだろうと思ったがつつかれるのもかなわないので俺は逃げることにした。しかし今日のタマは本気だった。


「サノー!」


 いつもは本気を出してなかったんだなってぐらいすごい剣幕でタマは追いかけてきて、散々俺をつつき回した。


「いてっ、痛いって! なんで俺つつかれてんだよっ! 山唐さんとこに来るって言っただろっ!」


 マジで痛いんだが。ポチ、ユマ、メイは我関せずというかんじである。相川さんが苦笑しているような顔が見えた。

 あ、と俺はやっと大事なことを思い出した。

 俺、タマに今日相川さんのところの大蛇が来るって言ってなかった?


「あー! ごめん、タマ! すまん、言ってなかったー!」


 それでもタマは許せないみたいで、それからしばらく俺はつつかれまくった。作業着に穴が空かなくてよかった。


「だ、大丈夫、ですか?」


 山唐さんの奥さんに心配をかけてしまった。


「大丈夫です……自業自得なんで……」


 きちんと言っておくこと大事。さすがに俺も学んだ……と思いたい。(何度も同じことをしている気がする)

 テンさんは荷台の上から首を持ち上げていて、リンさんは助手席に収まったままだった。相川さんは軽トラの側で立っている。


「相川さん、すみません。タマに言っておくのを忘れていました……」

「僕も確認すればよかったですね。ポチさん、タマさん、ユマさん、メイさん、今日はうちのリンとテンもご一緒させてください」


 ポチとタマが俺の前に立つ。ユマはさりげなくメイの前に立った。


「イイヨー」

「イイヨー」

「イイー」


 ココッとニワトリたちが返事をした。

 タマも事後承諾になってしまったせいか、すんなりだった。俺のことをつついてすっきりしたんだろう。


「佐野さん、相川さん、お茶にしませんか?」


 山唐さんにレストランの入口から声をかけられて頭を掻いた。奥さんはすでに家の中に引っ込んだみたいだった。


「お騒がせしてすみません」

「いえいえ、佐野さんのところのニワトリたちが優秀だと再確認できて嬉しいです。君たちはこの建物の北側にいてくれるかな?」


 山唐さんはニワトリたちとリンさんテンさんに向かって声をかけた。彼らは素直に従う。

 ユマが俺を慰めるようにすりっと身体をすり寄せてからみなの後を追った。なんつーかもう、ジーンとした。


「ユマさん、優しいですね」


 相川さんがしみじみ言う。


「ええ、俺にはもったいないくらいですよ」

「それってなんか嫁さんみたいですよ」

「ははは……」


 そうして、俺は相川さんと共にレストランの中へお邪魔したのだった。



みなさんが予想した通りの結果になりました(ぉぃ

次の更新は19日(火)です。よろしくー


本日は11時頃にコミカライズ第9話が公開される予定です。

22日(金)にはコミックス1巻も発売の予定ですし、楽しみですね!


今日、または来週頭には他にもお知らせが出ます。

楽しんでいただけると嬉しいです。



サポーター連絡:月半ばの定期便山暮らしSSを限定近況ノートに上げましたー。よろしくですー

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