650.残暑はあるけど概ね平和

 相川さんもハクレンについての真相は山唐さんに聞いたらしかった。(陸奥さんにも連絡済)

 明日は早い時間に出ることに決めた。なにせあの山の上まで行くとなると軽トラで1時間はかかるのである。直線距離はそこまで遠くないのだが、回り道回り道で向かうからかなり距離があるみたいだ。

 リンさんとテンさんも行くようで、ちょっと気になったことを相川さんに聞いてみた。


「リンさんとテンさんて、泳ぐんですか?」

「ああ……多分泳ぎますね」


 大蛇が池を泳ぐさまを見てみたい気はする。リンさんて、身体も全体的に浸けて泳ぐんだろうか。そうしたらけっこう怖いなとか勝手なことを思った。

 明日は山唐さんが南側の山の夫婦も紹介してくれるそうだ。奥さんの方が国家公務員らしいので、リンさんの姿を見ても問題ないという。国家公務員怖い。(ただの偏見です)

 今日はポチとタマがメイも連れて出かけて行った。


「どこ行くんだー?」

「カワー」

「カワー」


 ココッとメイ。聞いたら教えてくれた。


「気をつけて行ってこいよー」


 明日はでっかい池に行くっつったからその練習かなんかなんだろーか。さすがに浅いところはないんじゃないか? ニワトリって泳げないよな?

 いろいろ疑問はあったがメイが楽しそうなのでそのまま送り出した。


「ユマは側にいてくれるのか? ありがとなー」

「アリガトー?」


 ユマはコキャッと首を傾げた。なんで俺が礼を言うのかわからないみたいなんだよな。ユマは俺と一緒にいたくていてくれるというのが嬉しくてしょうがない。

 ユマの羽を優しく撫でて、上の墓へ向かった。川で水を汲んで、墓を掃除する。線香とそこらへんの花を供えて手を合わせた。


「明日は隣村の方へ行ってきます。大きい池があるらしいので、釣りをしてきます」


 お墓に報告をし、線香の火を消してから参道の草むしりを始めた。

 ちょっと間が空くとすぐに草ぼうぼうになってしまう。まだ暑い時期だからしょうがないけど、本当に寒くなるまで枯れないのだから強いなと思う。ユマは俺の側で草をつついたり虫を捕まえたりしている。時々様子を窺うと、俺の視線に気づくのか近づいてきてくれたりする。


「サノー?」

「なんでもないよ。腹が減ったら教えてくれなー」


 ホント、ユマってかわいいよな。

 しみじみ思う。

 なんとなく草を刈っている間に太陽が中天に差し掛かったことに気づいたので、今日のところはそれで止めることにした。間伐とかろくにしていない山の中だからそこまで暑くはないけど、作業をしていたから汗が滝のように流れる。


「っはー……」


 水を飲んでユマを手招きした。ユマには斜め掛けの鞄を身につけてもらっている。そこから深めの皿を出して、水を注いだ。ユマもおいしそうに水を飲んだ。


「アリガトー」

「俺の方が付き合ってくれてありがとうだよ」


 そうして一旦家に戻った。

 お昼ごはんを食べ、今度は家の周りとか畑の周りの草むしりをする。なんか年がら年中草むしりしてるなー。

 さすがに暑いので撤収した。


「あっつー……」


 あんまり無理して作業するといきなり雨が降ってきたりするのだ。でも最近あんまり雨も降ってないから少しぐらい降ってもいいかなとも思う。口には出さないけど。

 はいきなり滝のような雨が降ってきて、ポチやタマがびしょ濡れになって戻ってきた。

 もし神様が降らせたんだとしたらどういうメカニズムなんだろう?

 確か技術として人口降雨って方法はある。雨雲にヨウ化銀とかドライアイスを打ち込んで雨を降らせるって聞いた気がする。何でやるんだっけか? ミサイルかなんかだっけ? よくは覚えてないがそんなかんじだったかな。


「ユマ、ちょっと休憩するなー……」


 ユマも家の中に入ってきた。居間の側の土間でもふっとなる。


「俺についててくれるのは嬉しいんだけどさ、ユマはもう少し自由にしてていいんだぞ?」


 撫でながらそう言うと、ユマはふいっとそっぽを向いた。その仕草がかわいくて笑ってしまう。

 お茶を淹れてまったりした。

 今日はなんか昼寝する気にはなれなかったのだ。

 夕方、西の空が赤くなってきた頃ニワトリたちが戻ってきた。あちこちに羽が跳ねている。(ダジャレではない)


「おかえり、ポチ、タマ、メイ。いったいどうしたんだ?」


 足元はびしょ濡れだ。川にも入ったんだろう。

 三羽をザッと洗って家に入れる。


「明日は山唐さんちだから早く寝ようなー」


 でっかい池で釣りだなんてわくわくする。

 タマが気合を入れるように尾を振って、それがポチに当たった。ギョワッとかすごい声がしてびっくりした。


「タマ、家の中で尾を振らないように……」


 もうみんな尾が相当長いから土間で振るのは危ない。タマはムッとしたようだったが、自分が悪いということはわかったのか俺をつついたりはしなかった。

 ユマとメイと共に入浴しながら、俺は何か忘れていることがあるような気がした。


「? なんだっけ?」


 何か大事なことを忘れているような……?

 でも思い出さないんだからそこまで大事なことではないんだろう。



 翌朝、それで自分がたいへんなことになるなんて思ってはいなかった。



みなさんに指摘されたアレです(謎

次の更新は9/15(金)です。よろしくー


今週中になんらかのお知らせがある予定です。楽しみにしていただけると幸いです。



短編を上げたので宣伝ですー。


「初恋は草海に抱かれ」

https://kakuyomu.jp/works/16817330663376475516


なろうからの再掲(加筆修正しました)です。

「異世界で四神と結婚しろと言われました」のスピンオフですが、単品でも読めるよう書いています。

異世界ファンタジー恋愛物。ハッピーエンドです。

よろしければ読んでやってくださいませー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る