648.毎回つつくわけではないらしい

「それは佐野さんが悪いですね」


 ハクレンを捌いてきた相川さんにまで言われてしまった。

 川魚なので内臓は捨てるみたいだ。一部は相川さんが持って帰るので、とりあえず陸奥さんちの冷凍庫に保管してもらうという。うちはかまわないのでそのまま出してもらった。

 ニワトリたちが喜んでガツガツ食べる。相川さんがしっかりハクレンの写真を撮っておいてくれた。

 そうしている間に山唐さんが着いた。今回は急ぎということで奥さんとトラ猫は留守番らしい。


「いきなりお邪魔して申し訳ありません。私、隣村の山でレストランを経営している山唐と申します」


 みんなちょうど表にいたので、山唐さんに一言二言説明し、彼は陸奥さんに名刺を差し出して挨拶した。


「ああ、よろしく。佐野君とこのニワトリがあっちの川でハクレンを捕まえてな」


 陸奥さんが森の方を手で示した。相川さんが山唐さんにハクレンの写真を見せる。


「確かにハクレンですね。お手数ですが、川まで案内していただくことは可能ですか?」

「ああ、かまわないぞ」


 陸奥さんは人が来たことが嬉しいのかご機嫌だった。ニワトリたちが手持無沙汰そうにうろうろしている。


「佐野さん、すみませんがニワトリたちも一緒に向かわせていいですか?」

「ええ、かまいません。俺も行きますよ」


 山唐さんはどこでどう捕まえたのか聞きたいみたいだ。ニワトリたちも合わせてみんなでまた森の先にある川へと向かった。

 ポチにどうやって捕まえたのかを実演してもらうのはさすがに難しかった。またでかい魚が泳いできたというなら別だろうが、陸奥さんがいる状況でポチに理解できるように説明するのは難しかったのだろう。

 って、あれ? なんで俺山唐さんだったらうちのニワトリに理解できるように説明できると思っているんだろう?

 何か忘れているような気がしたが、山唐さんを見たら霧散してしまった。


「……上流から流れてきたと考えるのが自然ですね。こちらの川の上流を明日にでも確認してみます」


 現場は見たけれど、川を泳いでいる魚に不審な点は見られなかったようだ。


「上の、でっかい池でしたっけ? そちらから流れてきたんですかね?」

「……東側の川と違って直接繋がっているわけではないんです。こちら側に水がしみ出すところがあるようでして、そこから川になっているんですよ」

「ああ……」


 池の水がこちらの村側にしみ出して川になっているみたいだ。

 そうなると問題は距離だろうか。近ければハクレンがたまたま飛び跳ねた時こちらの川に落ちて流れてきたということもあるかもしれない。


「一番困るのは池のどこかに穴が空いている場合ですね」


 山唐さんは頭痛がするというように頭を押さえた。穴を通ってこちら側に出てきたなんて確かに困ってしまう。


「穴は困りますね」


 相川さんが苦笑する。ここにいつまでもいてもしかたないので、そろそろ帰ることにした。

 山唐さんは明日にでも山の上の池の確認をするらしい。


「たまたまならいいのですが……」

「ですね」


 ただの偶然であることを祈ろう。なにせハクレンは外来種だから、川に流れ出していたらたいへんだ。山の上では昔から養殖していた名残りを管理しているにすぎない。今回のことがきっかけで魚が処分されるなんてことになったら目も当てられないだろう。


「佐野さん、この問題が済みましたら是非釣りに来てくださいね」

「はい、その時はよろしくお願いします」


 そう、山唐さんのところの山の上に釣りに行く話をしているのだ。もちろん相川さんも一緒である。

 山唐さんが急いで帰ってから見上げると、西の空が赤くなっていた。

 さすがにもう帰らないとまずい。


「陸奥さん、お騒がせしました」

「いいってことよ。相川君、彼女にはちゃんとフォローしとけよ」

「はい、ありがとうございます」


 そういえばリンさんはずっと軽トラの助手席にいたんだもんな。あの身体をいったいどうやって軽トラの中に収めてるんだろうと考えたりもする。

 暗くなる前にと、ニワトリたちの嘴をキレイに拭いてから家に戻った。


「もう暗いから遊びに行くのはなしなー」


 わかっているだろうけど一応ポチとタマには伝えた。タマはとても不満そうだったが、今回はつついたりはしなかった。きっとおなかが満たされているからつつこうとまでは思わなかったんだろう。空腹が一番よくないっていうしなー。

 って、いつもタマは腹が減ってて気が立ってたから俺をつついていたのか?

 ちら、とタマを窺うと、何見てんのよ! とばかりにギンッと睨まれた。つつかないだけで不満ではあるらしい。

 ポチがとんでもないもの獲ってきたんだからしょうがないだろー。

 今日はニワトリたちを洗う時、けっこう生臭かった。魚を獲ったりしたからなんだろうな。

 どうにか洗って、夕飯の準備をする。

 昼のそうめんおいしかったなー。そうめんて、一人分だけ茹でるのはなんか侘しいから、意外と茹でないんだよなー。やっぱ人が来た時ぐらいしかやらない。

 ニワトリたちに餌を出し(今夜は少なめだ)、俺も夕飯を食べ終えたところで山唐さんからLINEが入った。


「……え」


 それを確認してちょっと笑ってしまった。

 大したことではなくてよかったなと胸を撫で下ろしたのだった。



次の更新は9/8(金)です。よろしくー

いつのまにか150万文字を突破していました。びっくりですー(笑)

さて、ハクレンがこちらにいた理由はなんでしょう~。大したことではないです(笑)



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中華ファンタジー恋愛物語です。


「黒竜王は花嫁を溺愛する」

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第一部完結しました。文字数の関係でだいぶ内容はしょりましたが、読んでいただけると嬉しいですー。

もっと鳥の出番を増やしたかった(どこまでも鳥

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