647.あんまり捕まえてきてほしくはない

 メイは俺たちの側で魚を食べ終えると、トトトッと森の中へ戻っていこうとした。


「あっ、メイ。待ってくれよ」


 一緒に連れてってくれと声をかけた。メイは立ち止まって振り返る。そしてしかたないなぁというように尾をぶんぶんと振った。勢いはそんなについてないが危ない。

 メイがトトトッと進むのを付いていく。メイは振り返らない。

 森といっても平地だから付いていけるけど、これが山とかだと厳しいかなと思った。

 メイの後について北の方へ進むと川に出た。


「あ」

「お!」

「勢ぞろいですね」


 陸奥さんが嬉しそうな声を発した。しっかりと川原があるわけではないが、ニワトリたちは川沿いにいた。ポチが大物を捕まえたらしい。


「おーい」


 近づくと、ポチが足で大きな魚を押さえているのが見えた。


「コイか? それにしちゃあでけえな」


 陸奥さんが首を傾げた。


「コイではないようですね……。ポチさん、ちょっと見せていただいてもいいですか?」


 相川さんの言にコココッとポチが鳴いて了承する。川の脇にある、ちょっとだけ平らになった部分で大きな魚がびちびちしているのをポチが足で押さえている。タマは川の方を見張るようにしていて、ユマは俺の姿を確認したのか近づいてきた。かわいい。メイはユマに近寄っていく。


「ふーむ、これはもしかしたら山の上の魚じゃないですか?」


 相川さんが魚を見てそう呟いた。


「えっ?」


 川は確かに山の上の方から流れてきているけど、例の湧き水が豊富な湖だか池からは流れて来ていないはずである。そんなようなことを以前山唐さんが言っていた。


「でも、あそこはこっちの川には繋がっていないって……」

「そうなんですよね。でもこの川も湧き水が川になったところなのでもしこの川が池の下流にあることを考えると……しかもこれってハクレンですし」

「ハクレン? つったらアレか? 大陸の方の魚じゃねえか。なんでこんなところにいるんだ?」


 陸奥さんが驚いたように声を上げた。


「ハクレンってかなり跳ねるんですよ。だから跳ねた拍子に池からたまたまこちらの川に落ちたとしたらありえないことではないんです。とはいってもかなりの偶然ですけどね」

「……現地を見てみねえとなんともいえねえな。ただアレだ。これがただの偶然ならいいが、この川に住みついてたらやべえぞ」

「ですよね」


 偶然だとは思うがそんな都合のいい話があるんだろうか。さすがにそこは疑問に思う。

 ポチがコキャッと首を傾げた。この魚どうするの? と聞いているようだ。


「この魚、どうしましょうか?」

「ああ、そうだな」


 陸奥さんはしまったというような顔をした。


「それなりの大きさだが……ニワトリたちが食べればいいだろ?」

「そうですね」


 さすがにニワトリたちが捕った魚を横取りする気にはなれない。何匹も捕れたなら考えるけど。


「じゃあ僕が捌きますよ。ポチさん、こちらのお魚少しだけ分けていただくことは可能でしょうか?」


 相川さんがポチに交渉する。ポチはココッと鳴いて了承した。


「大蛇だっけか」

「ええ、二切れぐらいいただければ十分です」


 陸奥さんが持参した袋に魚を入れ、相川さんがそれを担いで陸奥さんちに戻った。

「けっこう重いですね」なんて言っている。

 今日はこれで狩りは終わりにするのか、ニワトリたちが俺たちの後ろから付いてくる。気が付くとなんか狩ってるんだから困るよなー。

 相川さんは解体小屋に入って準備をし始めた。


「佐野さん、ハクレンをこちらの川で捕まえたことを山唐さんとうさんに連絡していただいてもいいですか?」

「わかりました」


 LINEで連絡すると、ほどなくして電話がかかってきた。


「ハクレンがそちらの川に、ですか?」

「はい。相川さんが今捌いてるんですけど……」

「佐野さんは今どちらに?」

「えっと……」


 説明は下手なんだが、どうにか場所を説明した。するとこれからこちらに来るという。実際にハクレンかどうか確認したいのだろう。


「そちらでお待ちいただくことになってしまいますが……おそらく一時間は待たせないと思います」

「一時間ぐらいならかまいません。気をつけてきてください」


 山唐さんが来ることになってしまった。陸奥さんと相川さんに伝える。

 ニワトリたちは庭でうろうろしていた。


「山唐さん? 隣村の山の上でレストランを経営してる? 佐野君はいろんな知り合いがいるなぁ」

「相川さんも知ってますよ。そこの山を管理している方なんです」

「ああー、そうか。国有林の管理人か。なら俺も挨拶した方がいいな」

「こちらに来るまでに一時間ぐらいかかるようなことは言ってましたけど、いいですか?」


 陸奥さんには事後承諾の形で申し訳ない。陸奥さんは快く受け入れてくれた。


「かまわんよ。こっちは待ってるだけだしな」


 とりあえず帰りが遅くなりそうなので、ニワトリたちに伝えることにした。できればユマにもリンさんに伝えてもらえるといいな。って、そこまでの意思疎通は可能なんだろうか?

 今から山唐さんが魚の件でこちらに来るから、山に帰るのはもう少し待ってくれとニワトリたちに言ったら、タマにつつかれた。もう帰る気満々だったのかもしれない。


「いてっ、痛いってっ! もしかしてタマは何も捕まえられなかったのかよ?」


 それなら怒る理由もわかるというものだと思ったら、飛び蹴りまで食らってしまった。痛すぎる。


「今のは佐野君が悪いよなぁ」


 縁側で俺たちの様子を見ていた陸奥さんが、そう言って笑った。解せぬ。



次の更新は5日(火)です。よろしくー


レビューいただきました! ありがとうございます。

それにしても、ブッチャー大人気ですねー(笑)<1800万PV記念SS

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