1800万PV記念SS「よその家のニワトリ、がんばる」

1800万PV記念、たいへんお待たせしました!

今回は、一年目の冬頃の「よその家のニワトリ」をお届けします。「山暮らし~」3巻にも出てきましたブッチャー。このままレギュラー入りなるか?(笑)



 村の南東に位置する田畑の一角、掛川家の庭のニワトリ小屋に「よその家のニワトリ」ことブッチャーは住んでいる。

 トリ小屋はそれなりに広く、ブッチャー以外はみな小さいメスばかりだ。

 以前のブッチャーであればメスがいようがいまいが気ままに過ごしていたが、佐野家のポチ、タマ、ユマに会ったことから己の存在というものを考えるようになった。

 ポチはブッチャーよりもはるかに大きく、しかも尾羽ではなく長くて強い尾を持つオンドリである。それにより、ブッチャーは毎回ポチに負けている。あの尾さえなければと思うこともあるが、あの尾をもってしても勝てないほどに己が強くなればいいのだと考えた。

 ブッチャーの知るポチは堂々としている。ブッチャーよりもでかいタマとユマを守っている姿はなんともかっこうよく、好感が持てた。

 メスは守るものである。

 そしてメスだけでなく弱きは守るものであるとブッチャーは考えた。

 それ以来ブッチャーは子どもたちにも手加減するようになった。

 大人の男には攻撃したくなる性質は変えられないが、子どもたちに対しては別である。子どもは守るものだ。


「ブッチャー、お前最近はカッコイイって評判だぞ」


 掛川のおじさんが嬉しそうにブッチャーに話しかけた。

 カッコイイは褒め言葉だとブッチャーは知っている。得意そうに頭をクンッと上げた。


「佐野君とこのニワトリたちに会ってから随分賢くなったなぁ。このままなら冬も潰さなくていいだろう、なあお前」

「今年の冬は潰さなくていいんじゃないかしら。きっと潰したら佐野君が泣くわよ」

「そうだなぁ。餌代はかかっちまうが、ここまで大きくなったら筋ばってうまくもねえや。よかったな、ブッチャー」


 掛川のおじさんはおばさんとそう話すと笑った。

 この辺りでは鶏は家畜だから、オンドリは食べられてしまうことの方が多い。けれどブッチャーは知らず知らずのうちにそれを回避できたようだった。

 もちろんそんなこと、ブッチャーは知らない。

 米の収穫も終わり、寒くなってきた頃、食べ物欲しさにか野生動物が近づいてくるようになった。

 この辺りで鶏を獲ろうとするのはテンやイタチである。基本的に夜小屋に入ってしまえば襲われることもないのだが、すぐ目の前に餌がいるのを知っているイタチが近づいてきた。

 ブッチャーは察知して、クァーッ、クァックァックァーッ! と鳴いた。

 オンドリの鳴き声にイタチが逃げていく。そうしてからおじさんが出てきた。


「おー、ブッチャーどうした?」


 ココッ、コココッとメンドリもおじさんに訴えた。しかし言葉は通じない。


「この時期だからなぁ……イタチかなんかか。明日にでも罠を設置するか。ブッチャー、ありがとな」


 おじさんはブッチャーの鳴き声を迷惑には思わなかったらしい。ブッチャーは半分警戒しつつ夜を過ごした。

 翌日の夜、小屋の卵を取るところからイタチが腕を伸ばしてきた。

 ブッチャーはつつきまくってイタチを撃退した。


「こんなところに毛がついてやがる……」


 翌日、おじさんも気付いた。


「全く、イタチだかテンだかも頭が良すぎていけねえ。ブッチャー、ありがとな」


 小屋の中にいるのではらちがあかないと、ブッチャーはその夜小屋の表に出て木の側に隠れた。小屋は外から鍵をかける仕様だが、南京錠ではないのでブッチャーはたびたび小屋から抜け出していた。

 イタチは間違いなくやってくるだろう。

 そこに餌がいることがわかっているのだから。

 夜も更けた頃、イタチが月明りから隠れるようにして現れた。音を立てずに素早く鶏小屋に近づく。

 ブッチャーはそれにいち早く気づき、一瞬でイタチに飛びかかった。


 キーッ、ギーッ! クワーックァックァックァーーーッ! キーーッ!!


 逃げようとするイタチにのしかかり鉤爪を食い込ませる。イタチはブッチャーに噛みつこうとしたがうまくいかなかったらしく逃げようと暴れた。

 静かな夜にその鳴き声が響いたことで、おじさんとおばさんがつんのめるようにして家から飛び出てきた。


「おいっ、ブッチャーっどうしたっ!?」

「アンタ、お手柄だよっ!」


 おばさんが棒でうまくイタチを叩き、どうにかして捕り物は終わった。



 後日、佐野がやってきた時掛川のおじさんとおばさんは得意そうにブッチャーの雄姿を話した。


「えー? イタチを捕まえたんですか? すごいですね! ブッチャー、かっこいいな!」


 佐野がそう言ったことで、近くにいたユマがブッチャーを見た。それまではどうも認識されていなかったらしい。

 やっとユマの視界に入ることができたと、ブッチャーは上機嫌になった。


「佐野君とこのニワトリじゃないが、うちのもすげえだろ?」

「元々ニワトリって強いって言いますよね。お手柄だなぁ」


 佐野がにこにこしながら褒めたことで、


「ブッチャーはペットにするか」

「そうね、役に立つしね。最後まで面倒みてやりましょ」


 掛川夫妻はずっとブッチャーを飼うことにしたらしい。

 けれどブッチャーはそんなことは全然知らず、今日も村のパトロールに出かけたりするのだった。



おしまい。


もう8月も終わりですね。

暑さが早く去ってほしいです。

久しぶりに「よその家のニワトリ」が出てきました。楽しんでいただけたなら幸いです。


これからもどうぞ「山暮らし~」をよろしくお願いします。

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