645.陸奥さんちにお邪魔した

 陸奥さんちの駐車場に軽トラを停める。

 相川さんは先に来ているみたいだった。相川さんの軽トラが停まっていて、助手席にリンさんが乗っている。下りるわけにはいかないからずっとあそこに収まっているのだろう。

 手を振って挨拶すると、リンさんも振り返してくれた。ポチとタマが俺の前に陣取る。俺は苦笑した。

 辺りをぐるりと見回してみると、陸奥さんと相川さんが籠を背負って戻ってくるのが見えた。


「こんにちはー」

「おー、来たか佐野君」

「精が出ますね」

「ニワトリたち勢ぞろいだなぁ」


 陸奥さんはにこにこしながら、軽トラの周りにいるニワトリたちを見回した。こうして四羽揃っているのを見ると不思議なかんじがする。


「どれ、野菜食うかー?」


 採れたての青菜を陸奥さんはニワトリたちに分けてくれた。

 ココッ、コココッとニワトリたちが礼を言う。そうして咥え、駐車場から少し離れたところに持って行ってつつき始めた。駐車場が危険だってわかってるんだよな。


「森の方までは行ってもいいが、その先の山はだめだぞ」


 陸奥さんに言われて、ニワトリたちは頷くように首を前に動かした。言っていることがわかるって素晴らしい。

 ユマは青菜を食べ終えるとリンさんの方へ向かった。少しお話するのかもしれない。


「佐野君、上がってくれ」

「お邪魔します」

「相川君の彼女は……」

「彼女はだめなんですよ」

「何年経ってもだめか。でもついて来たいっつーんだから健気だよなぁ」

「そうなんです」


 ノロケのように聞こえるけど、リンさんの姿を定期的に見せることで女性が寄ってこないようにって判断なんだろうな。リンさんもお疲れ様だ。

 出てきた奥さんに手土産の和菓子を渡した。


「あらまぁ、ありがとうね。ニワトリさんたちも連れてきているの?」

「はい、今いただいた青菜を外でつついてます」

「そうなのね」


 奥さんはにこにこしながら和菓子を持っていった。

 居間に通された。お茶と漬物が当たり前に出てくる。漬物はぬか漬けだった。うまい。


「風呂場の増築だよな」


 陸奥さんがニヤリとして言う。


「ですね」


 相川さんも楽しそうだ。ホント、何が楽しいのかさっぱりわからない。


「予算は100万円までです。それ以上は出しませんから」

「それだけありゃあヒノキ風呂だってできらあ。あとは壁を壊して、水回りか」

「そうですね」

「業者に一度見てもらった方がいいかもな。風呂場を作ったはいいがかえって寒くなっちゃいけねえ。知り合いに声かけとくよ」

「ありがとうございます」


 そこまでするんだと感心していると、「俺の家じゃねえからな」と返ってきた。


「俺が自分で住む家なら適当でもいいけどな、佐野君ちだろ? しかもニワトリたちが風呂に入るからっつー話じゃねえか。いいかげんに作るわけにゃあいかねえ」

「え……あ、はい」

「ただなぁ、風呂を広くするなら薪の方がいいぞ。ガスはプロパンだろ? 金がかかるしな」

「あー、そうですよねー」


 薪か。一応家の裏手の下がったところに炭焼き小屋があって、そこに薪は積んである。時間がある時に周囲の木の間伐とかやりながら木の枝を集めていたりもする。


「一冬でどれぐらいいりますかね」

「本当は一年以上乾かした方がいいんだがな。今年の冬の分ぐらいなら、山で落ちてる枝を拾っていきゃあ十分じゃねえか? 火つけ用なら枯れ葉とかスギの葉なんかを集めておけば十分だ。松ぼっくりも落ちてたら拾っておくといいぞー」

「松ぼっくりにも火がつきやすいんですか?」

「ああ、スギの葉とどっこいどっこいだな」

「へえ……」


 実際どうするかはともかく、いろいろ集めておいた方がよさそうである。

 時期としては、早ければ十月半ばには来たいという話だった。


「稲刈りさえなきゃあもっと早くできるんだが……」

「稲刈りは重要ですよ!」


 俺は去年掛川さんのところで一日手伝ったけど、本当にたいへんだった。筋肉痛が二三日解消されなかったもんな。(単純に運動不足とか、使ってない筋肉を使ったせいともいう)


「佐野君、今年は手伝いに来るか?」

「え? 稲刈りですか?」

「ああ」


 陸奥さんがニヤリとする。あんなのは一年に一回で十分である。勘弁してほしかった。


「いえ、遠慮します」


 昨年、来年も来いと掛川さんに言われていた。うちは基本掛川さんちから米を買わせてもらっている。


「そっか、それは残念だな」

「稲刈りはたいへんですもんね」


 そう言う相川さんは陸奥さんの田んぼの稲刈りを手伝うらしい。本当は俺も手伝った方がいいんだろうけど、ちょっとあれを年に二回もやるのはきついのだ。稲刈りなんて大体みんな同じ時期だろうから、日が被らなかったとしても連日なんてことになりかねない。それに、ここに稲刈りに来てしまうとニワトリたちが森の向こうとかで何か狩ってきそうで怖いんである。ポチが掛川さんちの雄鶏のブッチャーと遊んでてくれるぐらいが平和というものだ。(平和とは)


「お待たせ~」


 奥さんが昼飯を運んできてくれた。


「こんなもので悪いわねえ」

「いえいえ、ありがとうございます」


 今日のお昼はそうめんだった。キレイに盛り付けられたそうめんに氷が載っている。これだけで涼し気だ。


「養鶏場からね、サラダチキン? っていうのかしら、買ってきたのよ」


 サラダチキンのスライスを乗せた野菜サラダと、野菜の天ぷらが出てきた。海老天も乗っていた。小松菜の煮浸しも出てきた。なかなかに豪勢である。こんなものだなんて絶対に言わないでほしい。(謙遜だということはわかっている)


「いっぱい食べてちょうだいね」

「ありがとうございます、いただきます!」


 チリンチリンと風鈴が鳴る。虫の声も聞こえる。

 それでも空気が少し秋を感じさせてくれた。



ーーーーー

次の更新は29日(火)です。よろしくー


 掛川さんちでの稲刈りの様子は「山暮らし~」3巻に収録されいます。興味を持っていただけましたら是非読んでみてくださいねー♪(webのみでも十分お楽しみいただけるように書いていますが、書籍も合わせるともっと楽しめるよ! という仕様です)


新作の連載を開始しました。

中華ファンタジー恋愛物語です。


「黒竜王は花嫁を溺愛する」

https://kakuyomu.jp/works/16817330662536026076


毎日2話更新。砂がざんざか吐けるあまあま仕様です。

中編なので十日ぐらいで一部完結します。

読んでいただけると嬉しいです。よろしくー

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