643.残暑という時期はそろそろ終わりかもしれない
メイは不機嫌そうだった。
でも俺にだっこされるのは嫌なようで、しぶしぶユマの後に付いてきた。川の側に着いても前に出ないようメイなりに気を付けた結果らしい。
うんうん、メイも学んでるな。
頷いていたらメイにつつかれた。
「いてっ! メイ、なんでつつくんだよっ!」
そんなところタマに似なくていいんだぞ。ちなみに、メイのつつき方はそれほど痛くはなかった。つついちゃいけないんだぞってことで大げさに痛がって見せただけである。
どちらかといえばメイにつつかれたってショックの方がでかい。
メイいいいいい~~。
相川さんが笑いをこらえているのがわかった。いいですよ、どうぞ笑ってください。(やさぐれモード)
川に沿って降りていく。リンさんとテンさんはかなり下流の方にいた。うちの周りはもうあまりいなかったみたいだ。
「リン、テン、どうだ?」
「ココ、イル」
「ミハル」
ちょうどいい流れの場所があったのか、その辺りに多いらしい。相川さんは周りを見回した。
「ここからなら見えないだろう。人が来る気配があれば戻ってくれ」
「ココロエタ」
山沿いの道から比較的近いせいか、テンさんが警戒してくれているらしい。確かに下手に姿を見られたら通報されかねないもんな。よく考えていると思う。
「……時々山に入ってこようとする人がいるんですよね。こう、涼しくなってくると特に……」
相川さんに言われて頷いた。
「困りますね」
「そうなんですよ。川には柵ができませんから、川から上がってこられると厄介なんですよね……」
「そこまでするんですか?」
「悪いことをしようとする人はなんだってするんですよ」
相川さんは遠い目をした。俺よりも三年も長く住んでいるから、もしかしたら何かあったのかもしれない。それでも元いた場所に戻るよりはいいんだな。
「ああ、幸いそれほど入ってきた人はいないんですけどね。柵を乗り越えようとして、リンの姿を見て逃げたなんてのはいましたけど」
「あー……それって夜ですか」
「はい、夜ですね」
俺の時とシチュ自体は一緒か。あの夜のリンさん、怖かったなー。
今度は俺の方が遠い目をしてしまう。
「そ、それだけで済んでよかったですね」
「ええ、本当に」
相川さんがにっこりする。他にも何かありそうだったが、聞ける雰囲気ではなかった。
リンさんテンさんは三時頃には満足したらしく、それぐらいで帰ることにしたらしい。
思い出して、相川さんと陸奥さんちに行く日を決めたりした。一応陸奥さんに了解を取らないといけないので仮である。
「では聞いておきますね。浴室の増築、楽しみにしているみたいなのできっと待ってますよ」
「ははは……」
だからいったいどこに楽しみの要素があるというのか。
相川さんが帰ってから、晴れている空を見上げた。メイは川に入らなかった。いい子なのでなでなでした。メイは少し恥ずかしかったのか、ちょっとツンとしていた。そんなところもかわいい。
「……何がそんなに楽しいんだろうなぁ」
俺にはとんと理解できない。
家に戻る。軽く家の中を掃除し、倉庫からニワトリたちの餌を持ってきたりした。倉庫の冷蔵庫は夏は保冷剤をいっぱい敷きつめていても二日ぐらいで温くなってしまうのが困る。それでも扉を開けなければけっこう冷気が持つので助かる。
「また保冷剤交換だなー」
家の冷凍庫に入っている保冷剤をまた運んで行った。
「おわっ!」
冷蔵庫の側でジョロウグモを見つけて驚く。
「ここじゃ餌とか入ってこないんじゃないか? それともいるのかな」
でかいからびっくりするんだよなー。
山暮らしを始めてから、クモが益虫だと知った。もちろん毒グモは困るが、一応俺の山では観測されていないようである。今年はあまりマムシも見ないし、住みやすくなってきたように思う。
それでも油断は禁物だ。
倉庫の前でユマが待っていた。
「ん? ユマ、どうした?」
「サノー」
「うん」
「ビクリー?」
「ああ、俺の声が聞こえたのか。大丈夫、クモだったよ」
心配して見に来てくれたらしい。首をコキャッと傾げている。ユマは優しくて心配性だと思う。心配性は俺に似ちゃったかな。
ユマを撫でて家に戻った。家の前でメイが草をつついている。のどかだなと思う。
ポチとタマはいつも通り夕方に戻ってくるのかな。そんなことを考えながら何の気なしにTVをつける。民放でちょうど天気予報がやっていたので見ることにした。
「え」
台風発生の知らせがあった。まぁこの時期はいくつも発生してるよなーと思いながら進路を確認する。
「……ん?」
これってもしかしてこっちの方に来る?
できればこないでほしいと思った。
とはいえ備えは必要だろう。台風が来そうな日を予想して、陸奥さんちに行く予定の日を思い浮かべる。
まぁ台風が来る前には山に戻ってこられるだろう。
「道の柵の確認とかしないとな」
おっちゃんちにも連絡しないと。昨年はお互い助かったし。
「あー、重機の免許……」
すっかり忘れていた。もしできたら十月ぐらいに取りに行きたい。さすがに重機を買うことは難しいだろうが、免許を持っていれば村のを借りることもできるもんな。この時期は大人気らしいからなかなか借りられないかもしれないけど。
夏の暑さが解消されてきてほっとしたと思ったら今度は台風である。頼むからそれてほしい。
「こんなイベントは嫌だ……」
しみじみ呟いたのだった。
次の更新は22日(火)です。よろしくー
コミカライズ第八話、読んでいただけたでしょうかー? スタイリッシュな土間!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます