641.ニワトリたちはどこで時間を把握しているのか
翌朝、早い時間にタマが俺の足の上にのしっと乗った。
胸の上には乗らなくなって久しい。しかし足に乗られても重いものは重いのである。
「タマ~……」
タマは俺が起きたことを知ると、バッと跳びのき、ダダダダダッと走って逃げていった。怒る間もない。
どうにか身体を起こす。
「まだこんな時間かよ……」
起こされたのは六時前だ。今日は相川さんがリンさんテンさんを連れてくるから早く出かけたいのだろう。どんだけタマは苦手なのか。それともそれを口実に起こされただけか?
その可能性もあるなと苦笑し、目覚ましのセットを解除して顔を洗いに行った。
「おはよう、ポチ、タマ、ユマ、メイ」
「オハヨー」
「オソイー」
「オハヨー」
コココッとメイが鳴いて羽をバサバサ震わせる。オハヨーって言ってくれてるんだろうな。
それにしてもタマ、遅いってなんだよ?
「へーへー……」
早く出かけたいんですね。今朝もタマユマは卵を産んでくれたらしい。ありがたく回収して籠に入れ、今日の昼飯はどうしたもんか考える。
「何作るかなー」
呟きながらニワトリたちの餌を用意した。目玉焼きはこの間やったから、今度は炒め物だろうか。そうなるとトマトと卵の炒めか。あれ、おいしいよな。でも俺が作るとなんかふんわりいかないんだよなー。いっそのこと材料だけ切っておいて相川さんに頼むか? うーん、さすがにそれはーと思いながらみそ汁を作る。ジャガイモとタマネギ、ワカメの入ったみそ汁だ。いつも通り鍋いっぱいに作った。
ポチとタマは餌を食べ終えると、玄関の前へ移動した。
「はいはい、出かけるんだな……って、メイはまだだめだろ?」
メイも食べている途中でタマの後ろについて行こうとする。ユマが尾をつついた。メイがしぶしぶ立ち止まる。やっぱユマにはかなわないんだなとほっこりした。
タマが振り向き、コココッと鳴いた。メイがそれにココッと返し、振り返って餌をつつき始めた。
「サノー」
「オソイー」
玄関のガラス戸を開けろという話らしい。全く人使いの荒いニワトリである。今日のタマの口癖は「オソイー」のようだ。そんなに急かすなよ。
「はいはい。気を付けて行ってこいよー」
「アイカワー」
タマが聞く。
「うーんと……午前中には来る予定だぞ。多分三時ぐらいには帰るんじゃないかな」
タマは満足したように首を前に動かした。求めていた回答だったらしい。俺だってお前らのこと少しはわかるんだよ。
そうして二羽はツッタカターといつも通り出かけて行った。
九時ぐらいに相川さんが来た。
「うわぁ……」
荷台に載ってるテンさんて、いつ見ても大迫力だよなー。また成長したんじゃないか? ちょっと冷汗をかいた。
クァーッ! と野太い鳴き声がした。
「え?」
ポチとタマが何故か戻ってきていた。
「なんで?」
相川さんが降りる。
「すみません、お邪魔します。ポチさん、タマさん、ユマさん、メイさん、うちのリンとテンがザリガニや虫などを食べていってもよろしいでしょうか」
「イイヨー」
「イイヨー」
「イイヨー」
コココッと返事があった。相川さんが笑顔で「ありがとうございます」と言い、リンさんとテンさんを下ろした。メイの前にユマが立つ。確かにぐるぐる巻きにされたら絶対助からないもんな。ってそんなに警戒することはないと思うんだが。
「川へ行きましょうか。リン、テン、川以外では食うなよ。今日はあくまでザリガニだけだ」
「ワカッタ」
「ココロエタ」
俺も相川さんたちについていこうとしたが、タマに制された。タマとユマが相川さんたちを案内してくれるらしい。メイはトトトッとポチの側に移動した。やっぱ怖さみたいなのは感じるんだろうか。
「あのー、タマとユマが案内するみたいです」
「わかりました。ありがとうございます。リンとテンに指示したら戻ってきますね」
「はい」
ポチとメイと俺が留守番なんて珍しいよなと思った。
メイは家の周りで草をつついている。それをほんの少し離れた位置でポチは見守っていた。なんだよ、しっかりパパみたいなことできるんじゃないか。
ポチはでっかいし、貫禄もすごいんだけど、こうして見ると微笑ましい。
「ポチ、わざわざ戻ってきたのか?」
「メイー」
「うん、そうだな。ポチもタマも優しいな」
やはりメイが心配だったのだろう。つーか、俺が警戒心足りないんだろーか?
首を傾げていたら相川さんが戻ってきた。
タマとユマも戻ってくる。
「佐野さん、タマさんとユマさんに案内していただきました。ありがとうございます。まだ近くの川にも多少いるみたいですね」
「やっぱいるんですねー……」
ザリガニとの戦いはいつ終わるんだろう。やっぱ卵300個にはなかなか勝てなさそうだ。
「イクー」
「イクー」
ポチとタマは出かけるらしい。
「ああ、いいよ。ポチ、タマ、ありがとうな~」
今度こそポチとタマはツッタカターと出かけて行った。
「他の川も回らせてもらっていいですか? 山の下の方にはなりますけど」
「ええ、もちろんそれはかまいません」
どーせポチタマも裏山とかに行っただろうし、大丈夫だろう。
「そういえば相川さんに聞きたいことがあったんですけど」
ユマとメイは家の周りで草をつついている。
「なんでしょう?」
「トマトと卵の炒めを作る時、卵がどうしても固くなるんですよね。どうしたら相川さんみたいにふんわりできるのかなって」
「わかりました。後で実演しますね」
相川さんが笑む。
「鶏ガラスープの素ってありましたよね?」
「はい、あります」
やっぱ中華といったら鶏ガラだよな。ふわっふわ卵とトマトの炒めを思い出しただけで涎が垂れそうだった。
ーーーーー
次の更新は15日(火)です。コミカライズ第八話も公開されます。よろしくー
1800万PVありがとうございます! これからも「山暮らし~」をよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます