640.少しずつ準備をしていく

 ユマにマムシを始末してもらったその日の夜、おっちゃんから電話があった。

 ちょっとギクッとしたのは内緒だ。まさか……バ、バレてないよな?


「相川君から聞いたぞ」

「え? 何を、ですか?」

「何をってあれだろあれ。えーと、風呂の件だよ」

「あ、ああそうですよね」


 俺、動揺しすぎ。


「そんなに質がいいもんじゃねえが、ヒノキ風呂は用意できそうだぞ」

「マジですか」


 予算があるからってことなのかな。いくらなんでも浴槽は専門家が作ってくれるんだろうし。ユマもメイも入るから、広くて頑丈なのを作ってもらわないとな。壁を壊して……いったいどれぐらいでできるもんなんだろうか。


「風呂場の改築って、どれぐらいでできるものなんです?」

「水回りがどうなってるかによるが……一週間はかからんだろ。参道の件も聞いたから遅くとも10月以降には始められるはずだ」


 なんかおっちゃんの声がウキウキしている。どんだけモノ作りしたいんだよ。


「ありがたいですけど……無理はしないでくださいね」

「無理なんかしねえよ」


 そう言っておっちゃんはガハハと笑った。

 ちなみに、川デビューしたメイはとっても楽しかったらしい。ポチとタマが流されないように見張っていたみたいだ。お疲れ様である。


「川はどうだった?」


 メイはココッ、コココッと鳴きながら羽をバサバサさせた。それだけで楽しかったというのがわかる。ついにまにましてしまった。


「そうか、楽しかったか。でも一人で行っちゃだめだぞ? ちゃんとポチかタマかユマと一緒に行くようにしてくれな~」


 ココッ! とメイは返事をした。ちゃんと要求が通れば言うことをきくらしい。一番下だからそれなりにわがままだけど、素直でかわいいもんだよな。


「ポチ、タマもありがとうな~」


 そう声をかけたけど二羽には何言ってんだコイツ? って目で見られてしまった。ええそうですよね。メイの面倒を看るのは当たり前なんですよね。でもそんな冷たい反応をしなくたっていいじゃないか。そろそろ泣くぞ、コラ。

 明日は何をしようかと思っていたら、相川さんからLINEが入った。


「リンとテンが明日お伺いしたいらしいのですが、よろしいですか?」

「あー、ザリガニ……」


 タマがバッとこちらに向き、ギンッと俺を睨む。

 だからしょうがないじゃないか。リンさんテンさんに来てもらった方がどう考えたって駆除が早い。


「かまいません」


 そう返したら、午後に伺いますという。別に昼飯を用意するぐらいどうってことはないから、午前中の方が涼しいでしょうから、午前中から来てもらってもいいですかと返した。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


 相川さんなりに気を遣ってくれているのだろうが、いくら川とはいっても暑い中で作業をするのは可哀想だ。


「陸奥さんが、来週中であればいつでもかまわないとのことです。できれば午前中から来てほしいという話です」


 陸奥さんにも連絡してくれたらしい。ありがとうございますと返した。

 来週中か。いつお伺いするかな。

 明日相川さんと相談しよう。

 午前中から向かうとなるとお昼ご飯をいただくことになるだろう。ご迷惑ではないかといちいち心配してしまう。でもそれを俺が言い出すってのも違うしな。そうだ、手土産について相談してみよう。

 そんなことを考えてうろうろしていたらタマにつつかれた。


「いてっ!」


 居間でうろうろしてたんだから別に邪魔ではないはずだ。端っこにいたとはいえ、けっこう届くんだよな。


「なんでつつくんだよー」

「アイカワー」

「ああうん、明日相川さんがリンさんとテンさんを連れて来てくれるってさ。いてぇっ!」


 明日のことを話したら余計につつかれた。


「タマッ! お前らだけでザリガニを駆逐できないだろーがっ! そうでなけりゃ専門の業者さんとか呼ぶしかないんだぞ!」


 ザリガニ専門業者なんているんだろうか。自分で言って思った。何でも屋さんに頼むかんじかな。でもそれだと村の子どもたちが嬉々としてザリガニ捕りに来そうで、それはそれで嫌だ。

 できれば子どもたちを山に入れたくない。だってマムシはまだいるだろうし。何かあった時責任が取れない。(ヤマビルだっているし、マダニだって怖い)


「……ワカッター」


 タマはしぶしぶ返事をした。


「なんでそんなに嫌がるんだよ?」


 いいかげん教えてくれてもいいんじゃないか? と思ったけど、タマはプイッとそっぽを向いた。それを見てか、メイまで真似してそっぽを向く。なんか和んでしまった。

 なんとなくはわかるんだけど、本当にそうなのかはわからない。


「川を見てもらうだけだからさ。川の側に寄らなければ大丈夫だって」


 そう言ったらまたつつかれた。何度もしつこいわよっ! と言われているみたいだった。サーセン。

 ホント、いったいどっちが飼主なんだろうな? なんて思ったりもする。

 ユマが居間に近づいてきた。


「サノー」

「うん」


 俺を慰めるようにすり寄ってくれるユマがたまりません。何このニワトリたちによる飴とムチの使いっぷり。


「はー……ユマはやっぱかわいいなー……」


 しみじみ言ったら何故かメイも突撃してきて俺にすりすりすりすりし始めた。なんかもうかわいくて、なでなでしながら笑ってしまったのだった。



次の更新は10日(木)か11日(金)です。よろしくー


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