1700万PV記念SS「子どもたちはニワトリがお好き」

1700万PV記念、たいへんお待たせしました! そろそろ1800万じゃん!(汗

今回は、一年目の夏頃。「山暮らし~」書籍版2巻の夏のお話をお届けします。



「ユマちゃん、タマちゃんいーなー」


 夏休みである。

 陸奥の孫である頼子は縁側でスイカにぱくりとかぶりついてからそう呟いた。近所の子どもたちも一緒だ。この辺は田畑が広がっていて、家が点在している。同級生の友だちも含めて、子どもは五人いた。


「佐野さんちのニワトリ、いいよねー」


 同級生の友だちもポツリと呟いた。佐野は今年の春祭りに行った時カラーひよこが売っている屋台を見かけて買ったのだという。そのカラーひよこがあんなに大きくて、もふもふで、こっちが言ってることもわかって、イノシシまで狩るニワトリに成長しているのだ。


「でもあの尾が怖いのよねー」


 確かに、と頼子も思う。

 春祭りに売っていたなら夏祭りにも! と思って屋台を探してみたけど、残念ながらカラーひよこの屋台はなかった。あったのはいつも通りの金魚すくいと、子猫を売っている屋台だった。珍しいなと思って、頼子は立ち止まった。


「子猫なんて売っていいのー?」


 と屋台のおじさんに聞いたら、


「ただであげたら簡単に捨てちゃう人もいるんでなぁ」


 なんて頭を掻いていた。確かにそういうことをする人もいるのだろう。子猫がいたら楽しそうだなとは思ったけど、世話をできる自信がなかったので見送った。


「夏祭り、金魚すくい以外なんもなかったよなー」


 小学生の男子がぼやいた。


「え?」


 頼子は耳を疑った。子猫の屋台があったではないか。この子は見逃したのだろうか。


「なかったなー」

「ひよこ欲しかったなー」

「ねー」


 みんな見逃した? その可能性はある。生き物、というよりカラーひよこを売っている屋台を探していたなら猶更だ。でも頼子だけが知っているなんてことがあるものだろうか。

 でもなんだかあの子猫の屋台については、言ってはいけないような気がした。


「でもさー、ひよこ売ってて飼ったとしてもさ、あんな風に育つとは限らないよね?」


 友だちが呟く。


「確かに……」

「佐野さん、すっごく世話とかしてた……」


 家畜じゃないかんじだった。汚れとかもけっこう普通に落としてあげていたし、ニワトリにあげる物とかもすごく気にしていた。すごくかわいがってるペットなんだなって思って、それがとても羨ましく見えたのかもしれない。


「佐野さんみたいに飼えると思う?」

「無理じゃない?」


 多分カラーひよこが大きくなるまで飼うにしても、オンドリだったらすぐにお肉にしてしまうだろう。みんながみんなポチのように穏やかではない。メンドリだって卵を産まなかったら用なしだ。農家だとペットというより家畜である。役に立たない生き物に食べさせるごはんはないのだ。シビアなようだけどそれが全てである。


「やっぱ無理かぁ……」


 ユマちゃんとタマちゃんは優しい。でもそれは佐野さんが優しいからかもしれないなんて頼子は思った。



 夜、頼子は祖父を捕まえて聞いてみた。


「おじいちゃん」

「ん? なんだ?」


 縁側で祖父は煙草を吸っていた。横に蚊取り線香がある。頼子はコーラの瓶を倉庫の冷蔵庫から持ってきて、祖父の横に腰掛けた。夏だけど、日が落ちるとそれなりに涼しくも感じられる。


「佐野さんちのニワトリってでっかいよね」

「そうだな。佐野君が大事に育てたからだろうな」


 説得力があるんだかないんだかわからない。


「大事に育てたらあんなに巨大化するものなの?」

「わからねえが、ニワトリたちが佐野君を選んだんじゃねえか?」


 言っていることが理解できない。でもこの村では時折不思議なことが起きる。「となりのト〇ロ」という映画を頼子は見たことがあった。あれがなんとなくイメージできるのだ。


「おじいちゃん、あたしさ……夏祭りの屋台で、子猫を見たの」

「ほう……」

「でも他の子は金魚すくいしか見てないって言うんだよね」

「……そういうことはままあることさ」

「……子猫、もったいなかったかな」

「今回は縁がなかったんだろう」


 祖父はふーっと煙をゆっくりと吐き出した。煙が風で流されていく。


「それか、誰かの縁に引っかかったのかもしれねえな」

「誰かの縁?」

「近くにいると引き寄せられたりすることがないとはいえねえ。どちらにせよ、今回は縁がなかったってこった」

「そっかぁ……」


 頼子はため息をついた。自分に経済力があったら子猫がほしかった。いわゆる農家の家畜ではなく、自分だけが愛でてかわいがる存在がほしいとは思う。


「じゃあ、その誰かが飼ったかもしれないんだね」

「ああ、そうかもしれないぞ」


 この村の人たちはおおらかすぎると頼子は思うことがある。神様がいるのは当たり前だと思っているということもあるだろうけど、多少不思議なことがあってもあんまり気にしない。

 冷静に考えたら佐野の家のニワトリなんてとんでもない。ニワトリなのにギザギザの歯があるし、尾羽じゃなくて恐竜みたいな尾があるし、なによりもでっかいし。

 でも頼子たちと遊んでくれるし、つつくにしても優しい。


「まだ佐野さん来るかな?」

「ああ、また来るだろう」


 祖父がニヤッと笑った。じじいなのになんかカッコよく見えたのが、ちょっと憎たらしいと頼子は思ったのだった。


おしまい。



周囲から見た佐野君とニワトリたちを書いてみました。

リクエストは応えられる物があれば書いていきたいと思いますー。(設定などの関係で応えられないこともございます)


コミカライズ第7話公開中です。ちょっと今回不穏です(汗

第8話公開は8/15の予定です。

https://kakuyomu.jp/users/asagi/news/16817330661278161246


これからもどうぞ「山暮らし~」をよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る