一年経ってからの九月
639.9月になった
9月である。
だからなんだってかんじだ。
9月になったからって、一気に気温が下がったりはしない。ようは暑いんである。
朝晩の気温は下がってきたが日中はほとんど変わらない。俺が小学生の頃ってこんなに暑かっただろうか?
そして雑草も元気だ。今日もこれでもかと伸びまくっている。二、三日目を離したらぐんぐん伸びてるとかどうにかなりませんかねぇ。
そんな雑草との闘いは今年も11月ぐらいまで続くのである。考えただけでうんざりする。
このことだけでも山なんて買うものじゃないと思う。
え? 俺はもう諦めてるよ。うちのニワトリたちでっかいしさ。メイにも普通のニワトリじゃありえない尾がついてるし。メイもでっかく育つのかな。
うちのニワトリたちは山じゃなければ飼えないだろう。
メイは意気揚々とポチタマと共に川へ遊びに行った。昨日タマにお願いかなんかしたらしい。ついでに余計なことを言ったのか、何故か俺はタマにつつかれた。
「いてっ、なんでつつくんだよっ?」
「アイカワー」
「相川さんは元々来る予定だっただろ?」
「ザリガニー」
「……ああ、リンさんテンさんにちゃんと捕ってもらわないと増えるだろーが」
タマは反論は認めないらしい。強くはなかったが、やっぱりつんつんとつつかれた。
わかっちゃいるけど来られるのは嫌だと。でも増えるんだよ、アイツらは。
ちょっと調べたけど、卵を300も産むんだぜ? 全部が全部育つわけじゃないだろうけど、それでもすごい量だ。最初日本に入ってきた時は20匹だったらしい。それがうちの山の川いっぱいになっているだけじゃなくて、全国で繁殖しているという。
とんでもない話だ。少なくともこの山の生態系が戻るまではリンさんテンさんに協力してもらいたいものである。
他の国ではザリガニ料理が有名なんてところもあるけど、俺はそこまでして食べたいわけじゃないし。
「ユマ、墓に向かうぞー。ついでに少し登ったりするけどいいか?」
「イイヨー」
参道の整備はまだまだかかる。その前に予定の場所の草むしりだ。
何本か木も切ってくれるようなこと、相川さんが言ってたな。風呂は薪を使っているから薪にする材料はいくらあってもいいらしい。つっても二山で一人分の薪の量だから間伐した分で十分賄えるみたいだ。そりゃあそうだよな。
墓の手入れをしてそこらへんの花を飾り、線香に火をつける。
「9月になりました。今月もどうぞよろしくお願いします」
毎月やっているわけではないし、墓参りはけっこう変則的だ。挨拶できる時にするのが基本である。
「今年も連休の後ぐらいに実家の方の墓参りに行く予定です」
こんなことを聞かされても困ってしまうのだろうが、予定を話しておかないと俺が面倒くさがってやっぱやーめたなんてことも十分ありうるのだ。
正直実家の方へは行きたくない。誰かと顔を合わせたくないというのもあるけど、それ以上にニワトリたちと離れたくないのだ。
「ユマとは離れたくないんだよな……」
俺、ユマに依存しすぎ?
村の中にいる分には置いて出かけても気にならないんだが、やっぱ遠くまで行くとなるとなぁ。
しかし日帰りもなかなか厳しい。悩ましいところである。
そう考えると、昨年はよく日帰りで墓参りまでして来れたよな。あの時は実家に寄ってもすぐ帰ってきたからか。本当に顔を出してきただけだ。
でも今回はそういうわけにもいかないだろう。駐車場とマンションは管理会社に任せているが、ちょっとしたことなら姉ちゃんに連絡が行くようになっているのだ。もちろん俺のところにも連絡が来るから何をどう対処してくれているかはわかる。そこはすごく心強いと思った。
やっぱ最初からそういう会社に頼めばよかったんだよな。金はそれなりにかかるけど、その分面倒がない。
線香の火を消して片付けてから、参道予定場所の草むしりを始めた。
ユマは近くにいながら草をつついている。ニワトリにとってはそれなりに食べられる草があるみたいだ。それに草がいっぱい生えているということは虫もけっこう隠れていたりする。
そろそろまたヨモギを刻んで餌に混ぜることにしよう。ニワトリの健康の為には必須である。
「明日も晴れだよな」
抜いた草をまとめて風などの影響がなさそうなところに積んでおく。明日また来て焚火台で燃やす予定だ。抜いた直後は水分をかなり含んでいるから、なかなかうまく燃えなかったりする。一日ほっておくことで水分がある程度抜けるのだ。もちろんまだ水分が多いなと思ったら燃やすのは別の日に回したりもする。
こういうことも暮らしてみなければわからなかった。
ユマが食べている草は避けて持ち帰ることにした。いいおやつになるみたいだ。
山の上に向かって手を合わせる。
「今日の作業はここまでにします。また明日参ります」
無理はしませんよ~とアピールしておく。前に雨が降った時って、絶対神様が天気に介入したと思うんだよな。作業はほどほどにしないと、また強制的に終了させられてしまう。
「ユマ、戻るぞ~」
「ハーイ」
ユマに草をあげると喜んでくれた。俺にはどれがどの草なのかなんてさっぱり見分けがつかない。
家に戻り、ちょうど日陰になっているところに生えている草を抜いたりした。
「サノー」
「んー? って、うわぁっ!?」
まだいたのかよ。久しぶりに驚いた。
ユマが足でマムシを踏んづけていた。
まずおっちゃんの顔が浮かんだけど、おばさんの怒る顔も浮かんだ。うん、これは見なかったことにしよう。
「食べていいよ」
そんなわけで、あわれユマに捕まったマムシはユマの餌になったのだった。
うん、俺は何も見なかったぞ。
次の更新は8日(火)です。よろしくー。
そろそろ1700万PV記念SS書かないとー(汗
どんな話が読みたいですー?
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