638.まだ少しはザリガニもいるらしい

「ユマさんて、本当に優しいですよね」

「リンさんも優しいでしょう?」

「ええ、リンも優しいんですよ」


 相川さんは悪びれなく答えた。みんなには彼女設定で話しているリンさんだが、実際のところはペットというかまんま家族なのだろう。お互い、すごく信頼し合ってるもんな。


「そういえばリンさん、なんとなく最近は人間ぽいですよね」


 仕草とかそういうのをよく研究しているのか、それとも手の練習をしているのか、先日会った時動きがとても自然だったことを思い出した。


「そうですか? リンは努力家ですからね」

「そうなんですか」


 確かにリンさんはとても気遣いができる人(なんとなく相川さんちのリンさんテンさんは人と言いたくなる)だと思う。

 相川さんは川の方も見てアメリカザリガニの有無を確認した。


「だいぶ……数は少なくなっているみたいですね」

「それならよかったです」

「でもほっとくとまた増えるんですよね」

「ですね。すごい繁殖力だとは聞いてます」

「やはり近々一度来させていただいてもいいですか?」

「はい、ありがとうございます」


 ユマとメイが付いてきてくれていたので、メイを押さえてユマにザリガニを少し捕ってもらった。ポチやタマほど手際がいいわけではないが、川に入ってよく見つける。川に頭を突っ込んで、咥えたのを相川さんがかまえたバケツに向かって投げる。三回ぐらいやったらもうバケツに入れるのをミスらなくなった。

 ココッ、コココッとメイが抗議して身体を揺らしているが、俺は離さなかった。川は危険なんだっての。もう少しでかくなるかポチタマも一緒じゃない限り川には入らせないぞ。


「……佐野さんて、けっこう過保護ですよね」


 そんな俺たちの姿を見て相川さんが苦笑する。


「はい、自覚してます!」

「まぁ、川は危険ですからね」

「ええ、危険です」


 断言した。

 川は浅く見えてもかなり危険だ。絶対に子どもだけで入るなんて真似はしないでほしい。どうしても川に入りたかったらライフジャケット必須である。夏の水の事故は海が多そうだが川もかなり多い。浅いと思って油断して入る場合が多いのだ。川は浅くても流れがいきなり急になったりすることもある。そこで足を取られて少しでも深いところに引き込まれたらとても助からない。

 うちのニワトリたちは水に浸かるというより対岸とか、浅くて水の流れが緩やかなところを選んで作業をしているから安心だけど、メイにはまだそこらへんはわからないだろう。せめてポチタマも一緒に来て指導をしてもらわなければ安心できないのだった。


「うちのリンやテンであれば、けっこう深いところでも問題はありませんが……メイさんはまだ慎重にした方がよさそうです」

「はい、俺もそう思ってます」


 ザリガニをバケツの三分の二ほど集めてから戻った。メイは全然川に入れなかったということもあり、かなり俺の腕の中で暴れた。尾もかなりしっかりしているから足とかにバシバシ当たってけっこう痛い。

 ココッ、カーッ、コココッ!


「ダメー」


 ユマがトトトッと近づいてきてメイの尾をつついた。それでメイがしょんぼりしたようにおとなしくなった。


「今度ポチとタマも一緒の時に、連れて行ってもらってくれな~」


 ココッ

 しぶしぶだがメイは返事をした。


「……ユマさん、しっかりお母さんしてますね~」

「ええまあ」


 相川さんはにこにこしている。メイがおとなしくなったので、「メイ、今日はもう川には行かないからな」と言い聞かせて下ろした。メイがユマのところへ向かい、寄り添う。とてもかわいい光景だった。


「……ニワトリってホントかわいいですよね」


 相川さんも和むらしい。異論は全くないので頷いた。風呂の増築と参道の整備は十月以降に行うことを確認した。早くても九月の連休以降がいいだろう。それぐらいになれば日中も過ごしやすくなる。


「ではそのように連絡しておきます」


 相川さんに伝えてはもらうけど俺も一度挨拶に向かう予定だ。陸奥さんはまだ農作業もあるはずだし。引退して息子さん夫婦に畑や田んぼを譲ったとはいえ、時期的にしなければならないことも多いはずである。

 相川さんが帰るのを見送って、少しだけ昼寝することにした。

 秋だけどまだまだ暑い。でもこれがけっこう一気に寒くなったりするんだよな。風邪を引かないように気を付けなければいけないだろう。


「朝晩も涼しくなってきたしなー」


 ニワトリたちの体温が高いから、日中はエアコンを付けていることも多いが付ける時間も短くなってきた。

 蚊取り線香をつけ、居間でうとうとする。涼しくなってくると蚊が出てくるからそれが困りものだ。ニワトリたちがかなり捕まえてくれるから助かっている。

 特に疲れるようなことはしてないはずなんだけど、と思ったけど、山の上まで登ったじゃないかと思い直した。しかも参道を確認しながらだったから、あんまり使わない筋肉を使った気がする。

 筋肉痛にならなければいいな。筋肉痛になるとタマが面白がってつつくのだ。ああいうところ、タマはちょっと性格が悪いなと思う。あれが愛情表現だって? 愛情表現はもっと別のかんじでお願いしたい。

 そんなことを考えている間に俺は寝てしまったのだった。



次の更新は8/4(金)です。もしかしたら更新時間が遅くなるかもしれません。その時はごめんなさい。


さて、本日は11時頃にコミカライズ第7話が更新される予定です。

読んでいただけると幸いです~。


サポーター連絡:こちら更新前に近況ノートに限定SSを上げさせていただきました。よろしければ読んでやってくださいませー。

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