636.山頂へ。時折吹く風はそうなんだろうか

 9時前に下の柵の鍵を開けに行った。

 そろそろ相川さんにも合い鍵を渡しておいた方がいいんだろうか。以前は確か断られたけど、どうなんだろう。(おっちゃんが持ってるからいいだろうという判断だった気がする)


「ユマさん、メイさんこんにちは。お邪魔します」


 相川さんは時間通りにやってきた。


「午前中も涼しく感じるようになってきましたね」

「そうですね」


 今日は墓の上の方に行くとユマとメイにも言ってある。もちろん二羽も同行する予定だ。


「ユマさんとメイさん、一緒に助手席に乗れるっていいですね」


 相川さんがにこにこしながらそんなことを言う。


「そうですね。まだ今のうちはこうやって乗れますけど……どっちかがこれ以上大きくなったら無理かな」


 そうしたらどちらかにはポチタマみたいに荷台に乗ってもらうようだろう。うーん……難しい。

 ユマがなんだかショックを受けたような顔をしていた。まぁ、とはいえメイの成長は喜ばしかったりする。俺の助手席にいてくれるのはどっちなんだろうな。

 まずは山に登ろうと、上の墓のところへ向かった。もちろん墓をスルーしたりはしない。昨日も掃除して草むしりをしてと手入れはしていたが、今日もできることはやり、手を合わせてから参道(予定)の方へ。


「ああ、けっこう刈ってるじゃないですか」


 相川さんが雑草を刈った部分を見て嬉しそうに言った。


「今のうちにルート決めはした方がいいかもしれませんね」

「はい、すみません」

「佐野さん、そこはありがとうですよ」

「ありがとうございます」


 言い直し、ユマとメイも共に山を登り始めた。どうも”すみません”が癖になってるな。


「……支柱を立てて、紐を渡しましょう。もう少し本格的に印があった方がやりやすいと思います」


 登りながら相川さんが気になったことを教えてくれる。途中緩やかではあるがジグザグに登らないといけないようなところもあったり、少し平らになったところを写真に撮り、メモしたりしながら、ゆっくりと山頂まで登った。

 おかげで四十分ぐらいかかってしまった。

 ユマとメイがトトトッと祠のところまで先導してくれた。うちのニワトリたちは元気である。

 祠に少し付いている蜘蛛の巣を取り除き、近くの草につけた。軽く祠を掃除し、周りの雑草を抜く。陶器の皿を洗って水を入れ、挨拶をした。


「あまり来られなくてすみません。もう夏も終わりますね」


 本当に、ただの挨拶である。

 ユマとメイは近くで草や木をつついていた。相川さんも「ご無沙汰しています」と挨拶してくれた。


「佐野さんの仮想通貨がもっと値上がりしますように」


 って、オイ。


「何願ってるんですか!」

「願うのはただですよ?」

「そういう神様じゃないでしょーが!」

「僕が願う分には角は立たないでしょう?」

「えええええ」


 言い合っていたら、ふんわりとした風が吹いた。くるくるっとユマのメイの周りを回って、風は枯れ葉と共に裏山の方まで飛んでいった。ユマは気にしなかったがメイは気になったようでキョロキョロしていた。かわいい。


「……佐野さんのところの神様ってお茶目ですよね」

「はい!?」


 意味がわからん。相川さんはいったい何を言っているのか。

 山頂から下りる時も参道を意識しながら歩いた。


「登りはいいですけど、下りはやっぱ危ないですね」

「そうですね。やはり、階段状の横木があるとないではかなり違うでしょう」


 晴れている時はいいが、雨が降ったら全く登れなくなるではちょっと困る。せめて雨が止んで三日後ぐらいには危険なく登れた方がいい。え? 雨の翌日から動けって? さすがに山の中は危ないんだよなぁ。


「なんか足が痛い……」


 正確には太ももがプルプルしている気がする。かなり動くようにはなっていると思うが、運動不足かもしれなかった。ここにこう、とか意識して歩いたせいかもしれない。

 墓のところまで下りてから改めて参道を作る予定の場所を見上げた。


「これ、何本か木を切った方がいいですかね?」

「そうですね。ちょっと密集してますね」


 そうなると大がかりだ。


「でもお墓のところまでは車が入れるんですから、何本か切る程度で済むなら木の運搬もそれほど問題はないですよ。お風呂の増築もしますからついでにいろいろやってしまいましょう」


 あ、風呂の増築。

 実はすっかり忘れていた。

 相川さんがにっこりする。


「佐野さん」

「……はい」

「忘れてましたね?」

「い、いえ……そんな、ことは……」

「忘れててもいいですけどね。僕は覚えていますから」


 怖いよー。相川さんがこわーい。


「湯本さんたちもしっかり覚えていると思いますよ?」

「ですよねぇ……」


 だからどうして人んちの風呂を増築したがったり、人んちで何か作ったりとかしたがるんだろう。……自分ちは散々やってこれ以上やることがないせいかもしれない。

 なんだか精神的に疲れた気がする。ユマとメイを軽トラに乗せて家まで戻った。

 二羽は俺と相川さんを何度かつつくと、思い思いにうちの周りに移動した。メイも大きくなってるから、ユマが常に側にいなくてもいいみたいだ。こうやって少しずつ大人になっていくんだろうか。(すでに成鳥サイズだというのは目をつぶる)

 ごみや虫はユマとメイに軽く取ってもらったので相川さんを家に案内した。とりあえずお茶を出そう。えーと、漬物もあるな。


「佐野さん」

「はい」

「仮想通貨、かなーり上がってますよ」

「え?」


 そういえば最近はどうなっているんだろう。通帳の記帳を怠っているから知らないでいた。


「あ、最近記帳に行けてなくて……」

「ネットで確認はしてないんですか?」

「できるみたいなんですけど、よくわからないんですよね」

「書類とかあれば見ましょうか?」

「んー……そろそろ記帳に行ってくるからいいです」


 相川さんはにっこりした。


「最近特に伸び率がいいので、全部使ったらかなり豪華なお風呂ができそうですよ?」

「ええええ?」


 どんだけ増えたんだろう。ちょっと怖い俺だった。



次の更新は27日(木)または28日(金)です。よろしくー

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