634.夏の終わりの平和な一日

 それから数日は、山で作業をして過ごした。

 日中はまだまだ暑いが、午前中はそうでもなくなってきた。墓の上の、神様がいるところまでの参道整備を再開した。墓のところから参道の部分に入ると木々が沢山あるから日陰になる。風が吹くとそれなりに涼しくも感じられる。もう秋になっているのだなと思えた。

 そろそろ9月である。

 残暑とはよく言ったものだ。

 今日はポチが付き添ってくれている。珍しいこともあるものだ。

 タマユマとメイは山の中を少し散策するらしい。こうやってメイの教育もしていくのだなとジーンとなる。朝そんな三羽を見てにこにこしてたらタマに何ヘンな顔してんの? って目で見られた。タマのツンっぷりが相変わらず激しいです。頼むからもう少し優しくしてほしい。

 話を戻そう。ポチはそこらへんをつついている。時々ポチの方を見るのだが、必ず何かの虫を食べているので山の中は食べ物が豊富だなと思う。ニワトリにとって山は自然のバイキングなのかもしれない。

 草むしりをして、邪魔な石をどかして、と。まっすぐ登るのは現実的じゃないから多少はジグザグに登っていくようだ。だから草むしりもジグザグに行う。


「階段みたいに木とか取り付けたらまっすぐ登れるのかな……」


 そうなるとかなり深くまで杭を挿したりする必要があるだろう。杭を両側に挿して、そこに木の枝かなんかを横に置いて番線で留めて……考えただけで気が遠くなりそうだ。プラスチックフェンスを使うなんて方法もある。そういえば相川さんが前に言ってた気がする。


「……相川さんに相談するか」


 とりあえず午前中はそのまま草むしりを継続した。

 それにしてもこんなにがんばって生えなくていいと思う。


「いつも思うけど……こんなにいつ生えてるんだろーな」


 一日かけてだから気が付かないのかもしれないが、定点カメラとかで録画したら一日かけてうにょうにょ伸びていそうである。そういえばそんなのを映した番組があった。録画を早回しした画像を見て、植物こわっと思った記憶がある。まー、しょうがないよな。生きてるんだし。

 でももう少し遠慮しろ。

 ここは電動の刈払い機で刈ってもしょうがないので抜くしかない。山頂がものすごく遠く感じられた。

 うんざりしながら抜いていたけど、思ったより時間が経っていたらしい。


「サノー」

「ん? なんだ?」

「ヒルー」

「え? マジで?」


 もうそんなに時間が経っていたのか。慌てて腕時計を確認すると、確かに十二時を過ぎていた。ニワトリ時計すげい。(ニワトリ時計ってなんだ)


「ポチ、ありがとなー。じゃあ戻るか」


 ポチ自体は昼飯はいらないみたいだが、メイの分は用意した方がいいし。タマユマもそろそろうちの周りに戻ってきているだろう。特にどうするとか聞いてないけどそんなかんじじゃないかと思う。

 今日は走る気分ではなかったらしく、ポチは自分から荷台にバサバサと飛んだ。でかいのが荷台に飛び乗るとかすげえよな。


「じゃあ行くぞー」


 軽く片づけをして家の駐車場へ戻った。

 駐車場から家までは少し離れている。現在住んでいる元庄屋さんの家と駐車場の間に、元々他の人たちが住んでいた家屋があった場所と昔の畑跡、そして俺が作物を作っている畑があるのだ。だから家の庭部分に当たる場所はけっこう広い。

 家屋があった場所は冬にならして土を敷いたせいかそこにも雑草が生えている。俺が今使ってる畑は来年休ませることにして、隣の元畑だった土地を使う予定だ。同じ作物ばっかり作ってると連作障害を起こしたりするらしい。全然そこらへんはわからないのでおっちゃんに聞いたり相川さんに聞いたりしている。もちろんネットも調べたりする。

 でも山は何をするにも雑草と虫が敵だ。


「タマ、ユマ、メイ、おかえりー」

「オカエリー?」

「タダイマー」


 コココッとメイが返事をする。タマからすれば俺が「おかえり」というのは違うだろうと言いたいみたいだ。今日みたいな場合はどっちがただいまでおかえりなのかは難しい問題である。(そこまで難しくはない)

 それにしてもまだメイは話さないよな。そのうちしゃべるようになるんだろうか。しゃべらなくてもかわいいけどさ。


「今日はどこに行ってきたんだ?」


 聞いてもわからないだろうけど聞いてみる。


「アッチー」

「シター」


 ココッと返事がある。なんかメイの返事を聞くと笑顔になる。メイは俺の質問に答えているのか、タマユマの真似をしているのかどっちなんだろう。

 あっちの下か。この山の下辺りを散策してたのかな。


「この山? それとも裏山か?」


 指を下に、北に向けて聞けば、タマが「ココー」と答えてくれた。やっぱりこの山の下辺りに連れて行ったみたいだ。確かに言われてみればメイがいつもより汚いかんじだ。草っぽいのがけっこう付いている。


「そっか。メイ、おいで」


 手招きして取れる草とかは取ってやった。


「メシどうする? 家で食べるか?」

「タベナーイ」

「タベナーイ」

「タベルー」


 コココッと返事。ポチとタマは何も食べないでパトロールに出かけるらしい。


「ポチとタマは出かけるのか。何も狩ってくるなよ」


 山の中で草とか虫を食べるだけで足りるなら助かる。ユマとメイはうちでごはんだな。

 タマには何度も言うんじゃないわよッ! と言うようにつつかれた。しょうがないだろ。軽く大物を狩ってくる奴がいるんだから。

 ポチとタマを見送ってからユマとメイの汚れを軽く落としてやり、足を洗ってもらってから家に入れた。

 メイも十分遊んできて満足したのか、ポチたちと一緒に出かけはしなかった。

 タマユマとのお出かけ、大事だな。



次の更新は20日(木)または21日(金)です。1700万PV記念何書こう~。


レビューいただきました! ありがとうございます。

登場人物。。。すみませんがこれで勘弁していただけると幸いです。

でっかいニワトリが無双してる現代ファンタジー以外の説明ができない(ぉぃ

https://kadokawabooks.jp/product/yamagurashi/


いつもお読みいただきありがとうございますー!

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