633.山唐さんのことをいろいろ聞いてみる

 今までは扱いが難しいからとどこからも受け取っていなかったのだが、俺が食べなきゃいいだけじゃんと今回はシカ肉をお土産にいただいた。これはニワトリたちに切って出せばいいんだよな。

 シカは三頭全て成獣だったらしい。どれだけ繁殖しているのか。ゾッとしない話だ。


「シカは不意打ちでもないとなかなか狩れないんです。動きがかなり早いですから。ニワトリたちは三羽ということもありますが、かなり連携が取れていて安定しています。そこにタツキさんを組み込んだり、トラを入れても危なげなく立ち回っていました。……まさにプロですね」


 山唐さん、うちのニワトリたちをベタ褒めである。

 イノシシとか、シカを危なげなく狩れるニワトリってなんだろう。もうニワトリがゲシュタルト崩壊しそうだ。


「もちろんですが、タツキさんの動きも見事でした。ニワトリが作った死角を埋めて……もう言葉になりません」


 山唐さんは余程感動したらしい。具体的に、ではないが狩りのしかたを嬉しそうに語っていた。こういう人だったのかと新しい一面を見た思いである。

 トラネコについては何も言及しなかった。自分のところの飼い猫だからというより、山唐さん的に合格点には満たないようである。


「またお声掛けしますので、ニワトリたちに来てもらえると助かります」

「あっ、はい」


 俺自身特に用事があるわけではないからいつ声をかけてもらってもかまわない。直近でやらなければいけないことと言えば、山の参道作りぐらいのものである。

 思い出した。


「あの……そういえば北の山で釣りとかさせていただくことって今度できますか?」


 でっかいのを釣っても捌いてもらえると前に聞いたから、実は楽しみにしていたりする。


「ああ! はい、そうでしたね。いらっしゃるなら朝の早い時間の方がいいと思います。いつ頃いらっしゃるか伝えていただければ調整しますので」

「じゃあ、相談してまた伺います」


 俺一人で決めるわけにはいかないもんな。

 それで更にちょっとしたことを思い出した。


「そういえば、山唐さんてイノシシとか、シカが好物なんですか?」


 素朴な疑問だ。失礼なことを聞いてしまったならすまない。山唐さんが食べるのは基本生肉だということはわかっているが、肉によってやっぱり好みがあるのかなと思ったのだ。

 山唐さんは少し考えるような顔をした。


「……そうですね。豚肉や鶏肉も食べますが、できれば野生の生き物の方が好きです」

「じゃあ、ハクビシンとかはどうなんでしょう?」


 うちの山でハクビシンの巣があったことを思い出したのだ。あの時見つけた巣のハクビシンは全部捕まえてしまったけど、あの辺りに果樹を植えていたことを考えるともっといるような気がする。ニワトリたちもハクビシンの肉は食べるが、どちらかといえば大物を狙いたいみたいだ。その方が沢山食べられるからなんだろうな。

 だから、どんだけうちのニワトリたちは肉食なんだよ。


「ハクビシン!?」


 山唐さんの目がくわっと見開かれた。


「佐野さん、ハクビシンはどちらに!?」

「うわっ、え、えっと……前にうちの山で巣を作ってまして……」

「はい!」

「その時のはニワトリたちが退治したんですけど、おそらくまだ巣があるのではないかと思ってまして……」


 現時点でうちの山はハクビシンによる被害はなさそうだ。でもあそこにある果樹をどうにか栽培していこうと思ったらハクビシンは敵である。ハクビシンは果物とかが大好物らしいしな。


「そうですね。今度現場を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。それはかまいません……」

「……ハクビシンはとてもおいしいですから、是非妻にも食べさせたいです」


 優しい旦那さんなんだよな。ジビエを狩ろうとしている辺りがアレだけど。そんなわけで、また山唐さんもうちの山に来るつもりらしかった。


「もちろん狩猟の季節に伺いますので、その時はよろしくお願いします」

「はい」


 そりゃあそうだよな。狩猟期間以外に来て狩られても困ってしまう。うちの場合ニワトリが狩ったことにすればそれほど問題はなさそうだが、それはそれでなんだかなぁと思う。

 具体的な日にちはまだ決められないけど、また山唐さんのところへ来ることと、うちの山にも来てもらうことだけは決めた。

 ごはんもおいしかったしなかなか有意義だった。

 相川さんと桂木姉妹はお互い2mぐらい離れた位置で何やら話していた。もしかしたら本宮さんの件だろうか。いろいろたいへんそうだなと思った。

 帰宅したら、ポチとタマがいつも出かける方向を見た。

 はいはい遊びに行きたいんだな。


「暗くなる前には帰ってこいよ。それから、何も狩ってこないこと。わかったな?」

「ワカッター」

「ワカッター」


 タマは返事をしつつも俺をつついた。もうそんなこと言われなくてもわかってるわよッ! と言っているみたいだった。

 でも言わないと、どっかで見かけたら狩ってきそうじゃん。そこらへんうちのニワトリたちには信用がない。

 メイもわーいとばかりにポチタマに付いていこうとしたが、さすがにドラゴンさんもいないので捕まえた。

 ココッ、コココッ! と抗議される。


「メイ、今日はもうダメだ。ポチとタマは短時間で帰ってこないといけないからメイの面倒まではみれないよ。聞き分けてくれ」


 ココココッ!

 怒っている。

 ユマが近づいてきて、クァーッ! と鳴いた。途端にメイがおとなしくなった。


「ユマ、ありがとな」


 メイを放す。メイはなんだかふてくされたようにしょんぼりしていた。羽を撫でる。


「メイはまた今度な」


 ユマが一歩近づいたのでユマの羽も撫でた。


「あ、シカ肉しまわないと!」


 せっかくいただいてきたのだ。俺は慌ててクーラーボックスを家に運んだのだった。



次の更新は18日(火)です。それまでに1700万PV記念SSを書けたら書きますねー。もっと遅れたらすみません。


「山暮らし~」3巻お迎えいただけたでしょうか。

楽しんでもらっているならば幸いです。

回鍋肉も是非作ってみてくださいねー。


「Web版と書籍版はところどころ違うのですーな解説(何」に少し加筆しましたー。

https://kakuyomu.jp/works/16816927861337057957

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る